CxO Insights

時価総額10兆円も視野 NEC社長に聞く「AIとセキュリティ」で目指す「次の5年」

» 2025年06月19日 07時00分 公開

【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2025夏 開催決定!

従業員の生成AI利用率90%超のリアル! いちばんやさしい生成AIのはじめかた

【開催期間】2025年7月9日(水)〜8月6日(水)

【視聴】無料

【視聴方法】こちらより事前登録

【概要】ディップでは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに、“しくじりポイント”も交えながら「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

本稿について

NECの森田隆之社長は6月10日、NEC本社でグループインタビューに応じた。本稿は記者団とのやり取りを記事化したもの。

 NECは2025年度を迎え、現行の中期経営計画の最終年度として、積み上げてきた成果の集大成に挑んでいる。Non-GAAP営業利益など一部の中計目標の前倒し達成を背景に、2025年7月にはNECネッツエスアイの100%子会社化に伴う中間持株会社の発足といった組織再編を進めた。

 AIや顔認証など先端技術の社会実装も加速している。大阪・関西万博では約120万人規模を対象とした大規模な顔認証システムを導入(NECが万博で展開する顔認証 DXで培った「入場から決済まで」できる技術を参照)。入場管理や決済の完全キャッシュレス化を実現するなど、利便性と安全性を両立する新たな社会インフラの構築に取り組む。

 NECは、自社の強みをいかにして社会課題に生かしていくのか。組織再編によって、何をどう変えていくのか。前編【NEC社長に聞く「成長戦略と人材変革」 ブルーステラ発足1年の課題は?】に続き、森田隆之社長に聞いた。

photo 森田隆之(もりた・たかゆき)1983年にNECに入社、2002年に事業開発部長、11年に執行役員常務、18年に副社長、21年4月に社長に就任。6年間の米国勤務や2011年からの7年間の海外事業責任者としての経験も含め、海外事業に長期間携わってきたほか、M&Aなどの事業ポートフォリオの変革案件を数多く手掛け、半導体事業の再編や、PC事業における合弁会社設立、コンサルティング会社の買収などを主導した。21年5月には、30年に目指すべき未来像「NEC 2030VISION」と2025中期経営計画を公表した。65歳。大阪府出身(撮影:河嶌太郎)

組織再編とグループ力結集で次の成長へ

――森田社長は2025年度をどのような1年にしたいと考えているのでしょうか。

 2025年度は、2025中期経営計画の最終年度となりますが、計数目標の一部は2024年度に前倒しで達成できました。2021年度の当初は本当に達成できるのかという声もありましたが、大きなサプライズがなければ、現在は中計達成が射程圏内に入ってきたと感じています。そのうえで、次期中期経営計画を何年間のスパンで策定するかはまだ決まっていませんが、例えば5年間と仮定した場合、その期間でNECがどこに向かっていくのか、経営チームの中で方向性について共通認識を持つことが非常に重要だと考えています。

 もう一つ大切なのは、NECグループの力を結集するための準備を進めることです。組織を整理し、人心を一つにまとめていくことが必要だと考えています。例えばNECネッツエスアイのTOBを実施し100%子会社化したことに加え、NECネクサソリューションズや消防防災事業、中堅・中小企業向け事業の部門を統合し、2025年7月に中間持株会社を発足させます。

 こうした新たな組織体制を、NECネッツエスアイの牛島祐之会長兼CEOをはじめとするチームが中心となって青写真を描いていきますが、少なくとも今年度中には「これでいける」と自信を持てる状態に仕上げていかなければなりません。

 アビームコンサルティングとの連携もこの数年、急ピッチで進めてきました。今後さらに拡大するために、何をすべきか検討していきます。さらに、この夏には欧州で買収した3社の本社機能を日本から欧州に移転し、グローバルレベルでグループガバナンスの新しい形を実証していきます。こうした一連の取り組みを通じて、次の成長を生み出すための土台を、この一年でしっかりと検証していきたいと考えています。

 数字面については、次期中計でNon-GAAP営業利益15%をしっかりと実現できるかどうかを、この一年で見極めていきます。売り上げについては、市場の成長以上に伸ばす必要はありますが、売り上げだけを目標にするのは適切ではないと考えています。

 M&Aをすれば売り上げは一時的に増えますが、それを目標にしてしまうと先行投資型・リスク許容型になり、過去のNECが陥った「誤った道」を繰り返すことになりかねません。売り上げは市場競争力があれば自然と伸びていくものですので、利益規模の拡大を中心に据えて経営を進めていきます。

photo Non-GAAP営業利益など一部の中計目標を前倒し達成(NEC 2024年度(25年3月期)通期決算概要

日本企業が日本を守る体制

――サイバーセキュリティ事業について、自ら基盤を構築することの社会的意義についてどう考えているかお聞かせください。

 サイバーセキュリティの分野では、攻撃側も防御側もAIを活用する時代になっています。AIを用いることで、私たち自身が100%把握できていない技術を使って自分たちを守るリスクについても常に考慮しなければなりません。

 セキュリティの世界は日進月歩で進化しており、自分たち自身で現場に対応しながら開発を進めていくことが不可欠だと考えています。他社に依存するリスクは常に意識していますし、特に経済安全保障に関わる領域であればあるほど、自らの手で守り抜くことが極めて重要だと認識しています。

――「日本企業が日本企業を守る」意義については、どう考えていますか。

 海外ではクラウドやデータセンターなど、国の重要な情報を取り扱う場合、その国籍を持つ人材にしか許されないのが常識となっています。しかし日本では、この点が遅れており、管理体制がルーズだと指摘されてきました。そのため諸外国から「日本はセキュリティに弱い」と見られてきた現実があります。

 こうした課題には早急に対応する必要があり、日本の安全を守るためにも、諸外国と連携する際に支障が出ないよう、国産の基盤を自ら構築し、日本企業が日本企業を守る体制を強化することが不可欠だと考えています。

photo Cyber Intelligence & Operation Centerを新設(アイティメディア撮影)

グローバル市場で存在感を高める日本発IT企業の挑戦

――市場からの評価として、ここ数年の時価総額の伸びが顕著で、現在5兆円規模となっています。現状に対する感触と、2030年の時価総額についてどのようなイメージをお持ちかお聞かせください。

 企業はゴーイングコンサーン、すなわち継続的に世代を超えて強くなり、価値を拡大していく存在であるべきだと考えています。2021年に中期経営計画を立てた際には、ようやく普通の会社並みになった感触がありました。現在はマーケット全体の株価上昇の流れにNECも乗っているため、現状の株価には将来への期待が含まれていると謙虚に受け止めています。

 企業価値や時価総額はあくまで結果であり、目標そのものにはなりませんが、次のステップとしては2桁、すなわち10兆円規模を目指すべきだと私自身は考えています。その時に、どのような定性・定量両面での属性を備えた企業であるべきかを見定めることが重要だと感じています。

――グローバルに存在感を持つ日本国籍の企業として、2桁兆円の時価総額を目指すということについて、どのようにお考えでしょうか。

 企業価値はあくまで結果であり、私は以前から「企業には国籍がある」と申し上げてきました。NECは防衛・宇宙、通信インフラといった日本のデジタルインフラを支える役割を担っています。日本とともにもう一度再成長を実現し、その力を生かしてグローバルIT領域でプレゼンスを高めていきたいと考えています。

 ただし、IT市場は非常に大きいため、海外でIT全体を強くする必要はありません。特定のバーティカルや領域で尖った強さを持つ日本国籍の企業となり、経済安全保障をはじめとする領域で存在感を発揮していきたいと思っています。その結果として2桁兆円規模の企業価値を実現できれば、非常にうれしいことだと考えています。

DX成熟度の課題とNECが果たすべき役割

――NECの顔認証技術は大阪万博にも広く導入しています。今後の浸透や活用に向けた課題について教えてください。

 大阪万博では、落合陽一さんがプロデュースするシグネチャーパビリオン「null2」にNECの顔認証技術を導入しています。これまで顔認証に対しては、第三者にデータを預けることへの抵抗感や、情報が取られてしまうのではないかという懸念が根強くありました。しかしnull2で採用している仕組みは、個人が自分の情報を保持し、本人認証が必要な時だけ認証局に問い合わせて認証結果をスマートフォンに返すというものです。

 つまり、航空会社や政府、移民局などが顔データを保有するのではなく、個人が管理し、必要な時だけ認証する仕組みです。このアプローチが広がれば、プライバシーの懸念もクリアになり、利用者の安心感が高まることで、顔認証の普及が一気に進むと考えています。

 顔認証のテクノロジー自体はすでに完成の域に達しており、今後は認証局を誰が担うのか、複数設置するのかなど、制度設計の面での議論が進むことで、次の飛躍に向けたトリガーになると見ています。

――日本にはデジタル赤字という課題もあり、加えてDXの成熟度は一向に向上していない調査結果があります。NECが果たすべき役割についてどのように考えていますか。

 私自身はとても楽観的で、あまり心配はしていません。日本は高齢先進国であり、課題先進国でもありますが、だからこそ日本の価値がこれから発揮されるチャンスが来ていると感じています。米国も中国もそれぞれ課題を抱えている中で、日本も自らの課題をしっかり認識し、前向きに取り組んでいくしかありません。

 先日、社外の技術者と話した際にも「日本は暮らしたい国だ」と言われました。私が日本の技術にこだわるのも、日本の文化や言葉に根差した強みがあると考えているからです。特にAIの分野では、日本の良さが生きてくると信じています。デジタル赤字については確かに課題ですが、NECとしても反転攻勢の姿勢を持ち、良い面もぜひ見ていただきたいと思います。今も収支のバランスは取れており、私は将来をポジティブに見ています。

photo

この記事を読んだ方に AI活用、先進企業の実践知を学ぶ

ディップは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

生成AI
生成AI

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR