AIレコメンド発注を先行導入した店舗では、発注業務にかかる時間が週6時間削減された。村井氏は「この数字が示す以上の効果があります」と語る。「6時間というのは、発注作業そのものにかかる時間です。実際には、商品の売れ行きを考える時間、明日の天気を気にする時間など、見えない部分も含めるとさらに削減されていると考えています」(村井氏)。空いた時間は、売り場づくりなど店舗運営の質を向上させる業務に活用しているそうだ。
村井氏は、AIレコメンド発注の効果は業務効率化だけにとどまらないと話す。「発注を予測できるようになったことで、食品ロスの削減や品ぞろえの最適化も期待できます。それはいずれ、加盟店の売り上げ拡大にもつながると考えています」(村井氏)
また、導入した500店舗では、欠品率の低下も確認できているという。コンビニでは、例えばおむすびを購入する顧客の多くが、飲み物も一緒に購入する。しかし、目当てのおむすびが売り切れていれば、顧客は何も買わずに店を出てしまうことも。一つの商品の欠品により、関連商品の販売機会まで失うことにもなりかねない。AIレコメンド発注による欠品率の低下は、こうした潜在的な機会損失の防止にもつながっているといえるだろう。
AIレコメンド発注をスムーズに導入するため、ファミリーマートは、加盟店向けの勉強会を複数回実施。AIレコメンド発注のアルゴリズムはどうなっているのか、どんなデータを参照しているのか、どうやって計算しているのかなどを詳しく説明した。「加盟店の方々は何年も自分の経験と勘で発注してきました。それなのにいきなり、『AIが推奨する数値です』と言われても、すぐには信頼できませんよね」(村井氏)。仕組みから説明することで、「ここまで理論的なら、AIに任せた方が良い」という加盟店の理解や納得感につながったのだ。
ファミリーマートではAIアシスタントや店内清掃ロボット、デジタルでのワークスケジュール管理など、さまざまなデジタルツールを組み合わせることで、店舗の省人化・省力化を総合的に進めている。AIレコメンド発注も将来的には、店舗の発注データと製造側とのリアルタイム連携を検討中だ。「リアルタイムで連携できれば、今よりももっと早い段階から生産計画が立てられます。そうすれば、サプライチェーン全体でのフードロス削減も可能になるでしょう」と村井氏は期待を込める。
コンビニに限らず、小売業界において発注業務は店舗経営の要ともいえる。ファミリーマートの取り組みは、AIと人間の協働による新たな可能性を示しているのではないだろうか。
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