僧侶が“外に出ていく”取り組みも積極的に進めた。東森さんはグロービス経営大学院のエグゼクティブコースに通い、多くのビジネスパーソンの中で経営について学んだ。「僕以外は、企業の管理職の方ばかり。クラスの中であまりにも異業種だったため、みなさんからよく話しかけてもらった」と笑う。
「グロービスの学びで印象に残っていることの一つに、撤退基準を設けて事業をするということがあります。現在築地本願寺では婚活サポートサービスを提供しているが、この事業も開始時に開始から3年経って、人件費を含め赤字だったら撤退すると決めていました。これにより、周囲の協力を得やすくなったし、実際に関わる人たちもやる気を出してくれた。現在は90組以上が成婚しており、大きな成果を出しています」
東森さんは、これらの改革の取り組みについて「全ては原点回帰だ」と語る。
「われわれの使命は仏教の教えをお伝えし、人々の苦悩に寄り添っていくこと。これを実現するため、さまざまな手段としてデジタルを活用したり、ツールの開発を進めたりしてきました」
昔からお寺は、学校や役所の役割を持ち、いろいろな人が訪れる“ご縁を結べる場”だったと東森氏。その視点に立つと、婚活サポートサービスも銀座のサロンも、仏教や終活について学べるアカデミー事業も、原点に立ち返ったものだと話す。
これまでの「檀家」や「門徒」中心の運営だけでは厳しいのではないかと、東森さんは続ける。
「門徒の方々をはじめこれまで支えてくださった方々はもちろん大切ですが、それに加えて新しい人々とご縁を結んでいくことも、約60%が無宗教と言われている首都圏ではより一層重要性を増しています」
今までの寺でスタンダードとされていた、檀家や門徒をはじめとする“太いつながり”だけでなく、”今の時代に合った距離感”の人々を増やしていく──。さまざまな施策を講じる中で、見えてきた傾向もある。
1つは選択式にすること。墓、法要などさまざまな場面で「ご縁があった人に選んでもらえるよう、メニューを整えることが重要」だという。
2つ目は意味性。「例えば、法事はやるものだと決めつけるのではなく、『法事にはこういう意味がある』とその意味を説明していくことが重要」だ。
3つ目はコストベネフィットだ。価格に対してもしっかりと納得感を持ってもらえるようていねいに伝えることが重要だと考えている。
築地本願寺の取り組みは、浄土真宗本願寺派の本山である西本願寺(京都市)をはじめ全国に横展開していく予定だ。今後さらに社会構造が変化し、価値観の多様化も予想される中、寺を身近に感じる人々をどれだけ増やしていけるか、今後の取り組みにも注視したい。
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