イオンの攻勢、セブンの苦境――「スーパー大再編時代」と寡占化の行方小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2025年09月04日 08時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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今後数年で、寡占化が急速に進む

 しかし、こうした対応には集中加工センターへの設備投資が不可欠であり、投資余力のない企業には選択肢となり得ない。また、仮に無理して整備しても、一定規模以上のチェーンでなければ稼働率を維持するのは難しい。

 まさに規模の利益を享受するためには、一定以上の規模が前提となる。人手をかけて高いサービスレベルを実現し、消費者の支持を得てきたものの、低収益のまま事業を続けてきたような中堅・中小スーパーでは導入できないシステムなのである。これは今後数年の間に、寡占化が急速に進むことを示している。

 規模の利益を阻んできた店舗内での加工という特殊事情がなくなれば、スーパーの分散状態の時代は終わりを迎える。それは、スーパーのような特殊事情が存在しなかった他の小売業態で寡占化が進んできた事実からも明らかである。

 例えば、コンビニは大手3社でシェア9割超、ドラッグストアは上位10社で7割超、ホームセンターも10社で65%と、いずれも上位企業による寡占が進んでいる。コンビニの規模は50〜60兆円とされるが、小売業界の最大手であるイオンの6.6兆円ですら、その1割程度にすぎない。だからこそイオンにとって、規模の利益を生かしてシェア拡大を加速できるのは、今しかないのである。

イオンの次なるライバルは?

 2025年8月、株式市場におけるイオンの時価総額がセブン&アイを上回り、小売業界ではファーストリテイリングに次ぐ2位となったことが話題になっている。

イオンの次なるライバルはセブンか……(出典:ゲッティイメージズ)

 セブン&アイといえば、海外コンビニからの買収提案を受け、株価の引き上げに苦労したことが記憶に新しい。昔から財務基盤の強さで知られるセブンと比べ、イオンは資産効率の悪さや負債依存度の高さ、さらには親子上場の多さなどが指摘され、企業価値の面では長らく劣勢と見られてきた。しかし、セブンの成長が鈍化している影響も大きいものの、足元ではイオンの市場評価が高まりつつある。

 株主優待制度を重視して個人株主比率を高めてきたことが影響しているとされるが、前述のスーパー業界の事情も投資家や市場関係者に評価されているのだろう。寡占化が進む環境に変われば、イオンの成長余地が大きいことは明らかである。

 投資効率の悪いスーパー業界で地道に圧倒的シェアを築き上げ、さらに寡占化への道筋が見え始めているとなれば、期待が高まるのも当然といえる。飽和状態にあるコンビニ業界に対し、寡占化によってなお成長余地を残す大手スーパー。その対比こそが、こうした逆転の背景にあるのだろう。

 企業価値でほぼ肩を並べたイオンとセブン。セブンが抜かれたままで終わるはずはないが、スーパー業界が大再編期を迎えている今こそ、コンビニが内食需要の獲得に本格参入する絶好のチャンスでもある。

 イオンとセブンの対決は、ここから「第2幕」に入ると見るべきだろう。

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