早期に産直コーナーという事業の柱ができた「あ・ら・伊達な道の駅」。さらなる飛躍の原動力となったのは、2001年秋から始まった「ロイズチョコレート」の常設販売だった。この提携には歴史的背景がある。
施設名にある「伊達」は、この地と伊達家の深いつながりを表している。1591年、豊臣秀吉の奥州仕置により、伊達政宗は米沢(現山形県米沢市)から岩出山に移った。1603年に仙台城を築くまで12年間ここを居城とした。その後は4男の伊達宗泰に与えられ、岩出山伊達家は明治維新まで続いた。なお、施設名の「あ・ら・」はフランス語の「ala」(〜風、〜流)を意味し、この歴史ある「伊達な」という言葉をより強調している。
そして、戊辰戦争で敗れた岩出山伊達家10代当主・伊達邦直が北海道当別町に入植した特別な関係により、「北海道以外に常設店舗を出さない」というロイズの方針に例外が認められたのだ。なお、当別町にはロイズの製造工場がある。
最初は冷蔵ケース2台程度の小規模販売だったが、口コミなどで評判が広がり、3回のリニューアルを経て現在の大型店舗に発展。ロイズが大きな集客効果をもたらし、野菜や土産の購入、食事まで含めたワンストップ需要を創出した。これによって顧客単価と滞在時間を大幅に向上したのである。
順風満帆に見えるが、苦しい経験もした。それは2020年のコロナ禍である。売り上げが半分以下に落ち込み、「本当にこの先どうしようと毎日思っていました。半ば諦めかけていた」と佐々木社長は吐露する。
しかし、「Go Toトラベルキャンペーン」のクーポン対応をいち早く導入し、鳴子温泉宿泊客の帰り道需要を効果的に取り込んだ結果、「ウソのように人が戻ってきた」(佐々木社長)。最終的に2020年でも240万人程度の来場者を確保し、何とか赤字を回避したのである。
また、2020年、21年と連続でじゃらんの「全国道の駅グランプリ」でトップに。これが追い風となった。
このように危機を脱したのは偶然の要素もあるものの、来客の8割がリピーターという強固な顧客基盤があることを見過ごすわけにはいかない。「来るたびに何かが変わっている」という継続的な変化の創出が、顧客の強い愛着を生み出している。
時には毎週の頻度で行う商品陳列レイアウトの変更、ロイズ限定商品の定期的な投入、季節ごとの産直商品の自然な入れ替えなど、細かな変化の積み重ねが、客足を絶やすことなく、窮地を救ったのである。
佐々木社長によると、近年の道の駅は従来の「通過点」から「目的地」への転換が重要なトレンドとなっているという。それは「あ・ら・伊達な道の駅」でも変わらない。
同施設では約7年前に熱気球の搭乗体験を新たなコンテンツとして加えたほか、週末にはエントランス横に設置されたステージでイベントを開催。これによって客の滞在時間の延長を図っている。特に毎回盛り上がるのは、「日光さる軍団」のステージだという。コロナ禍で新たに出張公演を始めたさる軍団を毎月のように迎え入れ、SNS拡散効果も狙った取り組みを展開している。驚くのは、出演料などの費用は一切出していないという点。
逆にいえば、これによって出演のハードルは下がり、地元のアマチュアバンドや、子どものダンス発表なども当たり前に行われている。「来る者は拒まず」という姿勢が、集客にもうまく作用しているといえるだろう。
「限られた敷地の中で生き残るには、『ここに来れば何かしら楽しいことをやっている』と思ってもらえることが重要」と佐々木社長。規模に頼らないソフト面特化の差別化戦略により、持続的成長を実現している同施設のアプローチは、多くの地域にとって参考になるモデルといえる。
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