男女共同参画白書によると、2024年の民間企業における管理職女性の比率は、課長級で15.9%となっています。つまり裏返すと、8割以上は、男性が占めているということです。
女性管理職の比率は少しずつ上昇してきてはいるものの、政府が掲げている「2030年までに30%」という目標には遠い水準にあります。その目標が達成できたとしても、依然として管理職全体の7割は男性が占めることになります。
女性管理職の比率が男性よりも極端に低い理由の一つとしてよく聞かれるのは、女性自身が管理職を望んでいない、という指摘です。管理職に昇進すれば地位や給与は上がる半面、仕事が大変になりそうな印象があります。
ただ、それは男性にとっても同じはずです。「責任が重いから」「長時間労働がつらいから」だけでは、女性の管理職比率が低い理由を説明できません。
データを読み解くと浮かび上がるのは、女性をとりまく家庭の制約と正社員比率の低さ、そして昇進の“構造的な壁”――。管理職不足の時代に突入するいま、この課題は女性だけの問題ではなく、働き方全体の行方を左右するテーマと言えます。詳しく見ていきましょう。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
厚生労働省の平成30年版労働経済の分析を確認すると、管理職への昇進を望まない理由として最も多く挙げられたのは「責任が重くなる」。次いで多いのは、「業務量が増え、長時間労働になる」です。
日々の仕事をこなすだけでも大変なことなのに、管理職になれば責任や業務量が上乗せされてさらに大変になるとすると、しり込みしてしまうのも無理はありません。パーソル総合研究所の調査によると、現在勤めている会社で「管理職になりたい」と回答した人の割合は、2024年に男性20.4%に対し、女性は12.3%。
そもそも性別にかかわらず、管理職になりたい人の割合自体が決して多いわけではないようですが、女性希望者の比率は男性の6割程度にとどまっています。希望しない人を無理やり昇進させるわけにはいかないので、管理職比率に差が生じるのは必然と言えそうです。
ただ、課長級の男性が占める割合は8割以上に及んでおり、女性とは5倍以上もの差がついています。管理職希望者の比率を比較するだけでは、これほど大きな差が開く理由を説明することはできません。根本的な要因として無視できないのが、正社員比率の男女差です。
総務省の労働力調査を確認すると、2024年における正社員に占める女性の比率は35.6%。管理職になる人は基本的に正社員であることを踏まえると、性別に関係なく同等に昇進が行われる場合、管理職比率は正社員比率と近しい値になるはずです。
女性の管理職希望者は男性の6割だとすると、正社員の女性比率35.6%の6割は21.4%。課長級の比率15.9%だと届きませんが、係長級だと24.4%と上回る値になり、概ね妥当と言える範囲なのかもしれません。
ただ気になるのは、役職が上がるにつれて女性比率が下がっていくことです。部長級は9.8%と、1割を切ります。係長から課長、部長と上位の役職へ昇進していくプロセスは、特別優秀な人材が飛び級する例外を除き、一般的には概ね年齢の上昇と比例します。
役職が上がるにつれて女性比率が下がる背景を探るべく、10歳ごとに区切った年齢層を横軸、就業率を縦軸にして女性と男性それぞれの推移を描いたのが以下のグラフです。
女性は25〜34歳まで就業率が上昇した後、やや低下して35〜44歳が底となり、45〜54歳に向かって再び上昇した後、また下降線を辿る薄っすらとしたM字カーブを描きます。女性は結婚や出産などを機に、仕事から離れる人が増えるタイミングで凹みができるため、グラフがM字を描くのです。一方、男性は途中で凹むことなく台形になります。
ただ、女性の就業率は35〜44歳より45〜54歳の方が高くなっています。上位の役職へ昇進していくプロセスが年齢の上昇に比例するのだとしたら、役職が上がるにつれて女性比率が下がっていく理由が、M字カーブの動きからは見えてきません。
一方、年齢層別に正社員の男女比率を確認してみると、違う姿が見えてきます。女性は25〜34歳で41.9%。それが35〜44歳になると34.1%へと低下し、45〜54歳では32.2%、55〜64歳は29.7%と低下し続けます。M字カーブでは35〜44歳が底でしたが、正社員の女性比率は以下グラフのように緩やかな右肩下がりを描き、55〜64歳が底になっています。
役職定年を設けている会社は50代後半を対象にしていることが多い点を踏まえると、昇進の対象者は55〜64歳より手前の層が中心になります。年齢が上がるほど上位の役職に就く可能性が高まるのであれば、この分類の中で部長級に昇進する確率が最も高いと推察されるのは45〜54歳の層です。
ここに女性の管理職希望者が男性の6割だと仮定してかけ合わせてみると、32.2%の6割は19.3%。係長級の女性比率24.4%はこの水準を上回っていますが、課長級の15.9%はこの水準に届かず、部長級9.8%との開きは2倍近くです。上位の役職に昇進するにつれて、女性は男性よりも狭き門を通らなければならない状況になっていることがうかがえます。
その理由を探る上で見過ごせないのが、M字カーブと正社員比率の間に生じている35〜44歳以降のズレです。M字カーブでは就業率が上昇していくのに、正社員比率は低下していきます。これは女性が仕事復帰する際、非正規社員を選んでいるケースが多いことを示しています。
年齢層別に非正規社員の男女比率を確認すると、以下グラフのように女性は全年齢層で男性を上回り、35〜44歳は81.4%、45〜54歳は85.5%と8割を超える水準です。
非正規社員が増える背景にあるのは、結婚や育児、介護といった家庭の時間制約です。家庭と両立しながら働こうとすると、パートなどの非正規社員の方が時間を調整しやすくなります。また、正社員で働く場合であっても、家庭の制約を受けやすいのは女性です。
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