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出社回帰、休暇も壁あり……働き方の「ニューノーマル」は幻だったのか?働き方の見取り図(1/2 ページ)

» 2025年08月29日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 およそ3年にわたって、世界中を苦しめたコロナ禍。日本では2023年5月に新型コロナの感染症法上の位置付けが2類相当から5類に移行し、一つの区切りがつけられました。外出時のマスクは必須アイテムではなくなり、経済活動も停滞から再始動。現在はおおむねコロナ前と変わらない生活に戻っています。

 ただ、コロナ禍の真っただ中には、アフターコロナの社会は生活も働き方も常識が刷新され、ニューノーマル(New Normal:新常態)が訪れると予測されていました。実際、コロナ前には夢の働き方でしかなかったテレワークに対する認識は大きく変わっています。

 また、ウイルス一つで世界中が混乱する事実を目の当たりにし、外出自粛で自分と向き合う時間を多く持てたことは、働く人々の生き方やキャリア観にも少なからず影響を及ぼした面があります。

 しかし、それらの変化が「新しい常識」として根付いたのかと問われれば、答えはそう簡単ではありません。

テレワークなどは「ニューノーマル」として社会に根付いたのか? 写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫

愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。

所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。

NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。


テレワークの定着度は限定的

 働き方の変化で真っ先に挙げられるのはテレワークの浸透です。感染拡大を防ぐため、政府は出勤者の7割削減を経済界に要請。多くの企業が半ば強制的に導入し、オフィス勤務が当然だった人も、自宅のリビングや寝室にPCを持ち込み、オンライン会議に参加するようになりました。

 日本生産性本部の調査によると、2020年5月のテレワーク実施率は31.5%。それまでの感覚からすると、驚異的に高い数値でした。しかし、その後は低下の一途をたどり、直近の2025年7月時点では16.8%とピーク時から半減しています。

 もし、現在も実施率が40%、50%と上昇しているのであれば、ニューノーマルが到来したと言えるかもしれません。しかし、実際には「出社回帰」が目立ち、以前の働き方に戻る動きが広がっています。

有休取得率は改善したが……

 他にも、さまざまな変化は生じてきています。

 例えば、休暇の取得状況。厚生労働省の就労条件総合調査によると、2024年の年次有給休暇取得率は65.3%です。コロナ禍直前の2019年は52.4%だったので、その間に12.9ポイント上昇しています。

 しかし、有休取得率は2018年に51.1%、2017年は49.4%とコロナ禍以前から上昇傾向にありました。また、法改正によって2019年4月からは年10日以上の有休が付与される社員に対し、会社が年5日ついて取得させるよう義務付けられました。

 確かに取得率は上がりましたが、これは、かつての常識が刷新されてニューノーマルが到来したと言うよりも、地道に積み上げられた努力の延長線上にある変化だと感じます。実際、いまでも有休全体の3割以上が取得されていない現状があります。

 背景にあるのが、有休を取ることに「申し訳なさ」を感じる雰囲気が残っていることです。その根本的な理由の一つは、有休取得を前提とした職場体制が築かれていないことにあります。

 2024年の有給休暇平均付与日数は16.9日ですから、一年間で全て取得すれば、土日祝日に加えて月1日以上休むことができるはずです。しかし大抵の会社では、土日祝日以外は休まないことを前提とした職場体制が組まれています。

 そのため、有休取得しないことが標準で取得するのは特別なことだと見なされ、「明日は有休をいただきます。すみません」などとおわびをしなければならない雰囲気が生まれてしまうのです。

 本当にニューノーマルと呼べるのは、有休取得が“特別扱い”ではなくなり、社員が安心して休める体制が整い、謝罪の必要がなくなるときでしょう。

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