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出社回帰、休暇も壁あり……働き方の「ニューノーマル」は幻だったのか?働き方の見取り図(2/2 ページ)

» 2025年08月29日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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フルタイム勤務を前提とした社会構造

 仕事に費やす時間に対する考え方にも、変化は見られます。

 社員に24時間戦うことを求めるようなハッスルカルチャーは、以前に比べて影を潜めつつあります。しかし、多くの人が想定する働き方の標準は、いまもフルタイム勤務です。1日8時間×週5日の40時間に加え、月に数十時間の残業が組み込まれている職場も少なくありません。

 さらには出張や転勤も発生しますが、これらを何のためらいもなく受け入れられるのは1日の時間を100%仕事だけに使うことができる人に限られます。家事や育児、介護といった「家オペレーション」との両立などを前提にした場合、フルタイム勤務や出張、転勤のような働き方を当然のごとく受け入れることは、どうしても難しくなってしまいます。

 仕事だけに専念できるとしたら、主に該当するのは家庭の制約がない人や配偶者が専業主婦・主夫である世帯などです。しかし世の中の現状は、共働き世帯が増え続け、専業主婦世帯数のおよそ3倍になっています。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 こうした社会構造の変化が起きているにもかかわらず、フルタイム勤務を標準とし、短時間・短日数勤務を非標準とする考え方のままである現状について、ニューノーマルが訪れていると見なすのは難しいものがあります。

 通勤電車の光景を見ても、依然として朝夕の満員電車は解消されず、時差出勤やフレックスタイム制といった柔軟な働き方が標準化しているとは言いがたい状況です。

 さらに、男女の育休取得率の格差も依然、大きいのが現状です。2024年度の男性の育休取得率は40.5%まで上昇しましたが、女性の育休取得率86.6%の半分以下にとどまります。育休の取得期間も、2023年度の調査結果では、男性は3カ月未満が86.1%であるのに対し、女性は8カ月以上が87.9%と、大きな差が依然として存在しています。

静かに進む「局所的ニューノーマル」

 ここまでの内容を総合すると、ニューノーマルは現時点では到来しているとは言えないように思います。しかし、多方面において着実にさまざまな変化が積み重ねられてきていることもまた事実です。

 テレワークの実施率はピーク時から半減したとはいえ、一定の水準で定着しています。Zoomなどを用いたビデオ会議も日常的に行われています。コロナ前には会議や打ち合わせのために移動するのが当たり前でしたが、今では社内外の多くのやり取りがオンラインで完結するようになりました。

 もし全国の職場で取引先や会議室間の移動に費やされていた時間を合算し、コロナ禍前後で比較してみれば、ビデオ会議の普及によって凄まじい分量が削減されているはずです。ビデオ会議の浸透によって移動時間がカットされるようになった現在は、勤務時間の密度がこれまで以上に濃くなっています。出社回帰で勤務場所のニューノーマルは進んでいなくとも、業務を遂行する中での“局所的ニューノーマル”は進んでいるのです。

 さらに、人口動態の観点からも大きな変化が迫りつつあります。

 最大のボリュームゾーンである団塊世代が75歳以上となり、その次のピークである団塊ジュニア世代も50歳を超えて徐々に定年年齢へと近付いてきました。

 以前書いた記事「賃上げが進まない一因? “とりあえずパートで穴埋め”の企業が、今後直面する困難とは」でも指摘したように、人口減少とは反比例する形で増加を続けてきた雇用総数も、いよいよ減少に転じる可能性が高まりつつあります。

 こうした変化は、働き方のこれまでの常識(オールドノーマル)を根底から転換させていくかもしれません。DXの推進、テレワークおよびオンライン業務の定着、有休や男性育休取得の促進、人口及び雇用総数の減少による採用難の深刻化。これらに、働き手の価値観の多様化や、コロナ禍の経験とそこで芽生えたキャリア観の変化なども重なっています。

 コロナ禍のように目に見えて分かりやすい形ではなく、音を立てることなく同時多発的に「静かな大転換」が進む中、オールドノーマルにとどまり続ける職場は、時代から取り残されてしまうことになりかねません。本格的なニューノーマルの到来を見据え、いまから備えを進めることが会社に求められていると言えます。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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