2015年に米サンフランシスコで創業した、靴を中心としたアパレルブランド「Allbirds」(オールバーズ)。ディストリビューターの展開国を含めると40カ国以上で展開し、2024年の売上高は1.89億ドル(約280億円)を誇る。従業員数は542人程度(2024末時点)の規模だ。
同社の製品は環境志向が高く、メリノウールやユーカリ繊維、サトウキビ由来フォームなど天然由来の素材を軸に、製品ごとのカーボンフットプリントを表示し、二酸化炭素の低減に取り組んでいる。
創業10周年の2025年は、日本で独占販売契約を結ぶゴールドウインとともに「足元クールビズ」プロジェクトを始動。8月には東京・丸の内店で体感温度マイナス4度の実験体験を提供した。関西電力の「モアクト」や「みんなの電力」を運営するUPDATER(アップデーター、東京都世田谷区)など異業種とも連携し、ビジネスシーンの足元から夏を「1度でも涼しく」する行動変容を広げる方針だ。これに合わせ、新商品を秋にかけて積極的に展開していく。
Allbirdsの創業者は、「2010 FIFAワールドカップ」ニュージーランド代表にも選出されたティム・ブラウン取締役だ。ティム取締役は2012年にプロサッカー選手引退後、2015年に再生資源の研究・開発の専門家であるジョーイ・ズウィリンジャー氏と、Allbirdsを立ち上げた。
なぜプロアスリートだったティム取締役はセカンドキャリアとして、アパレル創業者の道を選んだのか。環境志向の高いブランドを展開している理由は。ティム取締役に聞いた。
ティム・ブラウン 1981年、イングランド生まれ。幼少期にニュージーランドへ移住しプロサッカー選手として活躍。2012年に現役を引退後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で経営学修士を取得。ニュージーランド産メリノウールを使用したスニーカーの開発に着手し、2014年にキックスターターで資金を調達。2015年にジョーイ・ズウィリンジャーと共にAllbirdsを創業。環境に配慮した製品が米国を中心に世界で注目を集め、2021年にはNASDAQに上場した――サステナビリティや脱炭素について、Allbirdsの取り組みと考え方を教えてください。
われわれはブランド10周年を迎えました。今年は既存のプロダクトを、ニュージーランドらしさを起点にもう一度想像し直す、いわばリ・イマジンの時期です。今秋はイノベーションを一段と強め、19の新商品を発売します。8月21日に発売した「リミックス」を皮切りに、9月には「クルーザー」というカラフルなウールの新作、そして10月には「ウールランナー」の再販を予定しています。
これらはサステナビリティのデザイン発想をさらに広げる、いわばこれまでの製品を刷新した製品群だと捉えています。いまサステナビリティはファッション的な潮流として忘れられかけている側面もあり、だからこそ重要だと感じています。
サステナビリティの議論が進歩しているのは素晴らしい一方、企業の取り組みとして、それだけでは不十分です。二酸化炭素量の規制や開示の義務化は重要なきっかけですが、本質はそこから創造性を発揮して、実装に踏み出すことにあると考えています。
開示は大切な一歩にすぎず、より重要でチャレンジングなのは作ること、すなわち行動することです。サステナブルだからという理由だけで人は製品を買いません。選ばれるのは、消費者が評価するプロダクトであるからです。われわれは消費者が何を求め、どんな価値を提供できるかに焦点を合わせています。そうした姿勢によって、低炭素化のアプローチを含め、製品のイノベーションと政策の両面に取り組んでいます。
――環境に着目した理由と、製品の中での具体的な落とし込みを教えてください。
私はビジネスの世界に来る前は、サッカーのプロアスリートでした。フットウェア業界に詳しかったわけでも、羊農場で育ったわけでもありません。しかしサッカー選手として多くのスポーツ用品を受け取る中で、それらの多くがプラスチック素材で、大きなロゴが付いていることに違和感を覚えました。
同時に、1980年代以降にニュージーランドのウール産業が力を失っていく一方で、石油由来のプラスチック製品が台頭し、靴もアパレルもその傾向が続いている現実を見てきました。選手時代から、この問題をなんとかしたい気持ちが芽生え、壮大な計画や深い知識があったわけではないものの、より良い製品を作りたいと考え始めたのです。
アスリートを引退して取り組むうちに、大きな成長余地があると気付きました。当初はウールに着目していましたが、掘り下げるほど多様な新素材のイノベーションが進んでいることも理解しました。そうした知見とハードワーク、家族の支え、少しの幸運が合わさって2015年、Allbirdsを設立しました。
現在は、「ウールランナー」のような天然素材起点の製品に加え、サトウキビ由来の「ミッドソール」(靴底の中層部)など素材のイノベーションを重ね、カーボンフットプリントの可視化と低減に取り組むことで考え方を製品に落とし込んでいます。さらに「リミックス」のようにリサイクル素材を採用した新作を通じて、サステナブルと高い性能を両立させる挑戦を続けています。
――製品ごとのカーボンフットプリントは、どのように測定し、どの程度まで表示していますか。
カーボンフットプリントの構成要素は5つあります。素材調達、生産、洗濯や乾燥などを含む日常的な使用、輸送、そして廃棄です。これらを通して製品のライフサイクルが成立し、各段階での排出量を測って全製品に数値を表示しています。将来的には、このカーボンフットプリントが食品のカロリー表示のように、あらゆる商品・サービスに必ず付くようになると考えています。
ただ測るだけでは不十分で、その数値を基により良い製品を作ることが重要です。例えばウールはまさに良くできた素材で、温度と湿度を調整し、柔らかく心地よい履き心地を実現します。クールビズ的な発想とも親和性があり、自然素材は独自の競争力を持つと見ています。長期的には、石油由来のプラスチック素材は「人類の解としてはならない」と考えています。自然素材で、より良い製品を作れることを実証し続けることが使命です。
――サステナビリティ重視という姿勢は、ティム取締役が自然豊かなニュージーランドで生まれ育ったことと関係がありますか。
正直に言えば、「サステナビリティ」という言葉への理解が深まったのは最近のことです。「私がニュージーランド出身=自動的にサステナブル」という単純な話ではありません。ただ、観光や第一次産業が重要な国なので、自然を大切にし、自然へのリスペクトが生活の中にあふれていました。
国の環境政策が常に正しいとは限りませんが、他の地域に比べると配慮は根付いていたと感じます。例えば母は、若い頃から服のタグを見て「石油由来でないものを選びなさい」と教えてくれました。そうした成長過程が、Allbirdsの価値観に通じる自分の考え方を形作ったのだと思います。
――日本ではGoldwinと独占販売契約を結び、販売しています。ティム取締役は日本市場をどう見ていますか。
デザイン性の面で、日本は私たちにとってスピリチュアルホーム、心のふるさとだと感じています。Allbirdsの価値観と通じる部分が多く、日本市場は非常に重要です。Goldwinとパートナーシップを組めたのは、とても幸運だと思います。
世界的に見ても、同社は優れたブランド運営の実績と環境配慮の知見を持っており、この提携によって規模拡大と長期的成長、そしてコスト削減と収益性の向上が見込めます。何年も前から同社のブランドの在り方に感銘を受けてきましたし、共に日本でのプレゼンスをさらに広げていけると期待しています。
――9月以降にAllbirdsは日本で19の新商品を投入します。この狙いは何ですか。
今は私たちにとってビジネスをより良くしていく大切な時期で、そのための準備に時間をかけてきました。創業者として立ち上げからの長い道のりを見てきて、私は短期でできることを過大評価しがちで、逆に長期でできることを過小評価しがちだと常に自戒しています。日本でも新商品によって選択肢を広げていきますが、拙速に数を追うのではなく、消費者に価値のある選択肢を丁寧に用意していく考えです。
――海外でも同様の動きを考えていますか。それとも日本特化の施策でしょうか。
事業は各地域で展開しており、それぞれに信頼できるパートナーがいます。Allbirds創業10周年という節目に合わせて、各国・各地域でビジネス基盤を磨き、オペレーションと商品力の両面を整える段階です。日本は重要市場の一つですが、日本だけに特化しているわけではありません。
衣類や靴を選ぶ際に何を身につけるかを真剣に考える人が増える中で、世界の消費者にとって納得できる選択肢になれるよう、長期の視点で取り組んでいます。日本で重要なブランドのひとつになるのが夢であり、そのためにまだやるべきことが多いのも事実です。これからも良い製品づくりと顧客体験の提供をしていきます。
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