苦境に立たされる「ヴィレッジヴァンガード」(以下ヴィレヴァン)。直近では、2期連続の最終赤字となり、2026年5月期以降に全店舗の約3割にあたる81店舗の閉店を検討していることを発表。店舗網は最盛期の半分以下となる約200店舗にまで縮小する見込みだ。
前編では、特に地方の店舗において、ヴィレヴァンらしい空間を生み出す「濃さ」が薄まりがちであることなど、「ヴィレヴァン離れ」が加速した背景を考察した。
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一方で、ヴィレヴァンらしい「濃い店」となりがちであった駅チカ・街ナカ立地の都市型店舗は、近年の「古い商業ビルの閉店」や「都市部の家賃高騰」、さらには「競合業態の増加」などに伴い減少の一途をたどっている。
大量閉店の先に光はあるか――。後編では、ヴィレヴァン復活へのカギはどこにあるのかを探りたい。
都市商業ライター。大分県別府市出身。
熊本大学・広島大学大学院を経て、久留米大学大学院在籍時にまちづくり・商業研究団体「都市商業研究所」に参画。
大型店や商店街でのトレンドを中心に、台湾・アニメ・アイドルなど多様な分野での執筆を行いつつ2021年に博士学位取得。専攻は商業地理学、趣味は地方百貨店と商店街めぐり。
アイコンの似顔絵は歌手・アーティストの三原海さんに描いていただきました。
都市型店舗は近年、減少し続けている。
渋谷本店、下北沢店などといった同社の象徴といえる旗艦店は残っているといえども、ここ数年のあいだでも千葉県柏市、千葉県津田沼、石川県金沢市(8月撤退)、長野県松本市、熊本市、大分市、さらには大阪市の梅田など、さまざまな都市で「駅チカ」「街ナカ」からヴィレヴァンが完全消滅した。
多くはパルコや丸井など商業ビルの閉館に伴うものであるものの、いずれも比較的大きな繁華街でありながら近隣に再出店できなかった状況を見るに、競合店が多い都市型店舗の経営の難しさがうかがえる。
先述したとおり、現在のヴィレヴァンは多くが地方郊外の店舗だ。ヴィレヴァンの象徴ともいうべき、
――という「濃い店」のほうがイレギュラーだ。「地方のショッピングセンターにある、ちょっと変わった雑貨店」こそが今のヴィレヴァンの主流であり、そうした店舗は競合店が少ないぶん客層もかなり広く、親子連れや小学生の姿も多く見かける。いわば「ちょっと不思議なキディランド」のような存在といえる。
実はヴィレヴァンは、成長路線を描くことが難しくなった2010年代から、ショッピングセンター内を中心にさらに「濃さ」を捨てた新業態「ニュースタイル by ヴィレッジヴァンガード」(以下、ニュースタイル)を展開するようになった。
「ニュースタイル」は店舗にもよるが、ヴィレヴァンでありながらヴィレヴァンではない落ち着いた雰囲気。陳列は整然としておりPOPもおとなしめだ。商品もアパレルやカバン、時計など一般的なヴィレヴァンよりも実用的かつ比較的高額なモノが多く、客単価が高めな新業態で起死回生を図りたいという思惑もうかがえる。
それでは、ヴィレヴァンは「濃さ」を捨ててしまうべきか――その答えは「否」であろう。
「ニュースタイル」業態の店舗は筆者が見る限り「どこかで見たことがある別の雑貨店」のような雰囲気と品ぞろえ。それゆえ、良くいえば入りやすく、悪くいえば(ほとんどのニュースタイルの店舗は近隣に一般のヴィレヴァンがあるのだが)一般のヴィレヴァンよりも空いており、他社雑貨店との差別化に苦労しているという印象だ。
商品そのものだけに価値を求める「モノ消費」から、体験・経験自体に価値を見い出す「コト/トキ消費」が重視される昨今。ヴィレヴァンは、創業初期から本・CDや雑貨を売るだけではなく、個性的なPOPや陳列、そして旗艦店を中心に実施されるイベントなどを通して「世界観やカルチャー自体を楽しむことができる体験型の店」としてファンを増やし続けており、小売店の中において先進的な存在だったといえる。
ヴィレヴァンは今回の大規模閉店に際して「EC(ネット通販)の拡大を業績回復の主軸の1つにする」としている。しかし、果たしてそれはうまくいくのだろうか。
今の若い世代の多くは海外通販を使うのに抵抗がない。
――という人も少なくなく、ヴィレヴァンの競争相手は世界各地のさまざまな分野へと広がることになる。
ヴィレヴァンは「欲しいものがあって行く店」というよりも「その雰囲気を味わいにフラっと立ち寄って、ついつい何かを買ってしまう店」だった。それゆえ、ヴィレヴァンが業績回復するための近道は「ヴィレヴァンのファンを増やし、そうしたファンの来店頻度も増やしていくこと」だろう。
無印良品やロフトなどといった多くの大手雑貨店は来店頻度を増やすべく、ポイントカード機能に加えて来店チェックイン・起動ログインボーナス機能、イベント案内機能などを設けたスマートフォン向け店舗アプリを配信しているが、このスマホ時代にあって現在のヴィレヴァンはそうした取り組みさえおこなえていないことも気にかかる。
ヴィレヴァンの店舗数は近く最盛期の半分以下、約200店舗の「少数精鋭」となる。しかし、減るとはいえどもその数はロフトやハンズ、キディランド、アニメイトなどと比べるとはるかに多い。つまり、それだけヴィレヴァンの世界を体験してもらえる機会――ひいては「ヴィレヴァンのファンになってもらえるチャンス」も多いわけだ。
ECやSNSなどによって大都市と地方が近くなった時代であるとはいえ、ヴィレヴァンは地方においては数少ない「都会のサブカル的世界観が感じられるちょっと面白い場所」の一つだった。もし実店舗が「ヴィレヴァンらしさ」を失ってしまうのであれば、新たな世代のヴィレヴァンファンの獲得や、ファンとなった人の来店頻度の増加は難しくなるであろう。
地方のショッピングセンターで個性を放つちょっとライトなヴィレヴァンが「サブカル世界への、そしてヴィレヴァン世界への入口」となり、そうして生まれたヴィレヴァンファンが都会に出て毎週イベントが開催されるような「濃いヴィレヴァン」を愛し、さらに子どもを連れて郊外のヴィレヴァンへと帰ってくる――。
「次世代のヴィレヴァンファン」を増やしていけるような唯一無二の店づくりができるのであれば、ヴィレヴァンは今後も末永く輝き続けるだろう。
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