首都圏の中心部にロードサイド型の有力スーパーが進出できていないのは、日本の消費者が生鮮品の鮮度に敏感であることも大きい。
多くのスーパーでは、生鮮品を店舗ごとに売場裏のバックヤードで小分け・パック詰めしている。その結果、労働集約的になることに加え、売場面積の半分近くをバックヤードに割かざるを得ない。販売に使えない面積が増えるため、不動産コストの高い首都圏中心部では採算が合わないのだ。
この課題を解決するには、コストの低い郊外に集中加工センターを設け、生鮮品をそこで小分け・パック詰めしたうえで店舗に配送しても鮮度を維持できる仕組みを構築する必要がある。大手各社がこの実現に向けて取り組んでいるものの、現時点で一定の成果を上げているのは、まいばすのみだ。
まいばすはコンビニ跡地を活用して出店し、バックヤードを持たず、商品は集中センターから配送し、陳列するだけという効率的な運営を実現したミニスーパーだ。東京都23区から京浜エリアの人口密集地を中心に、コンビニ並みの密度で店舗を展開し、遠出が難しい高齢者や忙しい世帯の需要を取り込むことに成功。現在では売上規模約3000億円のチェーンに成長している。
ただ、まいばすの顧客層は利便性を評価している一方で、品ぞろえや店舗作りに必ずしも満足しているわけではないことも指摘されている。そうした層に対して、より上質なサービスを提供できれば、戦える余地は十分にあるだろう。
ベイン側のコメントに「この20年成長してこなかった負け癖が弱み」とあるように、ヨーカ堂は長らく一人負け状態だった。
しかし、その経営資源を見ると、成長を遂げている競合よりもはるかに恵まれているのも事実だ。首都圏という巨大市場で、すでに投資を終えたインフラと潤沢な投資余力を持っている。また、業界屈指の実力を持つベニマルと、分離によって対等な関係となったセブン-イレブンとの協業余地もある。ヨークHDは、競合他社がうらやむほどの資源を持っているのである。
こうした資源を活用することで、再成長のシナリオを描くことは十分可能であり、実際にそれを実行できるかどうかが運命の分かれ道となるだろう。ヨークHDの挑戦は、歴史ある小売業が時代の転換点をどのように乗り越えるのかを示す、興味深い事例となりそうだ。
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