そして、クルマの進化のためにあえて重量増を選ぶケースも存在する。それは軽量化と走りのバランスを整えるための改良だ。
トヨタは2025年9月、GRカローラのマイナーチェンジ版を発表した。外装デザインなどにも手を加えているが、見えないところの改良が実に興味深い。車両重量は若干増えるかもしれないが、クルマの走行性能を高めるために採用されている。
それは、締結ボルトの形状変更などによって部品同士の締結剛性を高める、というものだ。車体とサブフレーム、サブフレームとサスペンションアームなどの締結部分のボルトを変更するだけで、部品自体は従来品のまま、走りを安定させたりステアリングの応答性を高めたりすることを実現している。
ボルトの頭の大型化や、フランジ部分の厚肉化、形状による補強は、軽量化とは逆行する変更だが、確実にクルマの性能は向上する。これはトヨタ86/スバルBRZでも行われてきた手法だ。
それでもクルマを極力軽くするというトレンドは、これからも変わらない。軽く、強く、安全なクルマを作り出すために、自動車メーカーやサプライヤーのエンジニアは頭をひねり続けているのだ。
そうした日本のメーカーの実直な姿勢は、時間をかけて世界中のユーザーに周知されている。現在は価格面で攻勢をかけている新興メーカーも、あと数年たてば、部品供給や信頼性の面で問題が生じることは想像に難くない。スズキのクルマがインドで圧倒的なシェアを誇るのは、車体が軽いからではないのである。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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