こうした市場変化は、NTTの業績に表れ始めている。2024年度の年間受注額は436億円だったが、2025年度第1四半期の3カ月間だけで既に670億円に達した。このペースなら、2025年度末には1500億円、2027年度には年間5000億円を超える計算だ。
ただし、現時点でのtsuzumi2の受注は数十件にとどまる。AI関連事業全体の受注額の大半は、汎用AIを使ったソリューションだ。企業はまずオープンなクラウドAIから活用を始め、その後クローズド領域への展開を検討する段階にある。
大西氏は「今後どんどん増えていく」と見通す。汎用AIで始めた企業が、機密データを扱う段階でtsuzumiに移行するという流れである。
木下氏によれば、パラメータサイズが小さければ、作る時も使う時も消費電力は下がる。tsuzumi2は数千億パラメータのモデルに比べ、100分の1の電力で動作する。データセンターの電力供給が限界に近づく中、省電力性は競争力の一つとなる。
企業が直面しているのは、性能と主権のトレードオフだ。海外の大規模モデルは圧倒的な性能を誇るが、データ主権への懸念は消えない。機密情報をクラウドに上げることへの抵抗感は、経済安全保障への関心が高まる中で強まっている。
tsuzumi2は、小型ながら大規模モデルに匹敵する性能を実現し、この両立を図る。オンプレミス環境で動作するため、企業は機密データを外部に出すことなくAIを活用できる。ハードウェアコストは約500万円。大規模モデルの10分の1から20分の1だ。
ただし、課題もある。大西氏は「クローズド領域をクラウドで扱うのか、オンプレで扱うのか。企業によって基準が異なり、各社とも線引きに悩んでいる」と指摘する。どこまでを国産モデルで守り、どこを汎用モデルで効率化するか。企業はその線引きを模索している段階だ。
政府の動きも影響する。大西氏によれば、国自体も「自治体を含め、どこまでの機微データを国産にし、どこを汎用にするか。国としてのルールがまだ定まっていない」という。ルールが明確になれば、tsuzumiのような純国産モデルを機微なところにしっかり使っていくという流れができる。産業競争力と経済安全保障が守れる形になる。
NTTの「小さく賢い」戦略が市場を変えられるか。それとも、性能を重視する企業は海外勢の大規模モデルに流れ続けるのか。tsuzumi2の成否は、日本企業がデータ主権をどこまで重視するかにかかっている。
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