顧客のメールにAIが返信実行、任せて本当に大丈夫? Gmailでもやらないことを国産法務テックがやるワケ「下書き止まり」ではない(3/4 ページ)

» 2025年11月13日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

社長自ら実験台、7割のメールで「修正不要」

 では、なぜこのような製品が生まれたのか。

 きっかけは、角田社長自身の経験だった。社長として営業に携わる中で、メールを書く作業に違和感を覚えた。顧客は違っても、書く内容は似ている。製品の機能、価格、導入方法。同じような説明を、何度も繰り返していた。「これは本質的に人間がやるべき仕事なのか」。

 丹野氏も同じ疑問を持っていた。「お客さんが変わっても似たようなことを書いている。一部のメール作成は人間がやることじゃない」。

 この問いから、DealOnの開発が始まった。2025年4月、社内に専門チームが立ち上がり、7月から営業部門での実証が始まる。開発当初から、下書き機能ではなく自動返信を目標に据えた。生産性向上には、“遂行”まで踏み込む必要があると判断したからだ。

 「下書きだけでもありがたいが、生産性を本当に上げるなら遂行まで踏み込む必要があった」と吉田氏は振り返る。営業の生産性向上という課題は、待ったなしだった。年間経常収益(ARR)100億円規模まで成長した同社にとって、人の力だけで営業を拡大し続けるのは限界が見えていた。

 社内には抵抗感もあった。AIが勝手に返信して、本当に大丈夫なのか。半年間の実証で、その懐疑は確信に変わった。

 7割以上のメールで、人の修正が不要だった。顧客からの製品機能の相談は、自動返信で完結することが多い。土日や終業後にメールが届いた時も、AIが即座に対応する。「サービスについて問い合わせがあった際、代わりに回答してくれた。お客さまも営業担当からの回答を待つことなく、疑問が解決できた様子だった」。社内調査では、AIが生成した文体やトーンについて、すべての営業担当が「適切だ」と評価した。

 メール業務の生産性は大きく向上した。実際に使用している営業責任者の奥川一樹氏は「メール業務においては、3倍以上の生産性向上を感じている」と語る。顧客の製品導入を支援するカスタマーサクセス部門の責任者は「これがきちんと機能すれば、担当できる顧客数を3倍に増やせるかもしれない」と話す。

DealOnの営業責任者を務める奥川一樹氏

 そして、面白い副産物も生まれた。同社の顧客企業が、AIの自動返信を受け取り、「このツールはすごいね。うちの会社で使えないか」と問い合わせてきたのだ。AIが顧客対応をすること自体が、製品のデモンストレーションになっていた。

 角田社長が吉田氏に告げた開発目標がある。「DealOnが、自分でDealOnを売れるようなプロダクトにしてくれ」。

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