従量課金モデルは、AI時代のSaaSにとって魅力的に見える。使った分だけ課金する仕組みは理解しやすく、コストに見合った収益も期待できる。しかし現実は単純ではない。
Hacobuの濱崎惟取締役執行役員・CFO(崎はつくりが「立」に「可」の“たつさき”)は、次のような課金モデルの使い分けを示した。
「実は今のプロダクトにも従量課金の部分はある。例えば物流の現場でショートメッセージを携帯電話に飛ばすオプションメニューがある」
コストも効果も分かりやすく、顧客にも説明しやすい一方、AI機能の多くは定額課金に含まれている。プロダクト内のデータを検索してチャットで回答する機能や、情報入力の自動化機能は無料提供だ。なぜ従量化しないのか。
「『人の業務が減ります』というものは、それを入れたからといってすぐ人員削減するわけにもいかない。その価値を簡単に示すことは難しい」。M崎氏は営業的にもマーケティング的にもハードルが高いと認める。今後は「アクションや成果が見えやすいもの」から、段階的に従量課金を導入していく方針だという。
ゼロボードの渡慶次道隆社長も、選択的なアプローチを取る。QAチャットボットは無償提供し、自社のコスト削減効果を享受する。従量課金しているのは、GHG排出量算定時に請求書などを読み込むAI-OCR部分だ。ただし「最終的には課金できない世界にすぐなると思う」と渡慶次氏は語る。業務処理系のAI機能はマネされやすい。
Zuoraのツォ氏は、この議論の本質を「UOM」(Unit of Measure:測定単位)という概念で説明する。「消費ベースのモデルで最も重要なのは、正しい測定単位を見つけることだ」。Zuora自身は創業以来、請求書の数をUOMとして採用してきた。
「多くの人がAIサービスではトークン数(AI基盤モデルの処理量)で価格設定しようとしている。しかし、それは提供側のコストを反映しているだけで、顧客にとってトークンが何を意味するのか、どんな価値があるのかは理解しにくい」。ツォ氏は、コストとの相関だけでなく、顧客が感じる価値との相関を持つUOMを見つけることの重要性を強調した。
従量課金が機能するのは、顧客が価値を実感できる単位で測定できる場合だけだ。
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