米国で不振に陥っているドランク エレファントは、2012年に同国で創業し、2019年に資生堂が約900億円で買収したブランドだ。当時は急成長中で、短期間で売り上げ100億円規模に到達した新興スキンケアメーカーとして期待を集めていた。そのため、M&Aに積極的なイメージのなかった資生堂が勝負をかけた案件としても注目された。
ドランク エレファントは、アルコールなど刺激が強いとされる6つの成分を排除した“クリーンビューティー”の先駆的ブランドで、SNSで人気が広がり、単価1万円前後の商品が売れるビジネスモデルを確立していた。
決算を見る限り、同ブランドは2023年までは順調に拡大していた。しかし異変が起きたのは2024年、そして2025年に入ると売上不振が一気に深刻化した。2025年上半期の売り上げは前年同期比で57%減と急落し、日本での展開も2025年6月に終了している。売り上げが5割以上落ち込むのは異常で、模倣品の増加や在庫過剰、同様の訴求をした安価なブランドの台頭により、市場を奪われたと考えられている。
これを立て直すには、ターゲットを明確にし、適切な宣伝を打つこと。つまり、魚谷氏が日本コカ・コーラ時代に行った、競合に勝つマーケティング戦略が求められる。当時はテレビCMが中心だったが、現在はSNSを活用したインフルエンサー・マーケティングが主流だ。ツールこそ異なるが、基本的な考え方は変わらない。また、ドランク エレファントが主力販売チャネルとしてきたフランス発のセレクトショップ「セフォラ」との関係再構築も急務だ。
こうして見ると、パーソナルケア事業の売却といい、ドランク エレファントの不調といい、結果論ではあるが、資生堂の泣き所はM&Aへの対応力のなさにあるといえる。現在、資生堂は世界で5〜6位の売上規模だが、トップのロレアルは6兆円、2位のユニリーバは4兆円、3位のエスティローダは2兆円超と、上位企業とは大きな差がある。
これらのグローバル企業と肩を並べるには、M&Aは欠かせない成長戦略だ。今後資生堂が立て直しを図るには、M&Aのプロ中のプロをトップクラスの経営陣に迎える必要があるだろう。そこに、資生堂再建の未来がかかっている。
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
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