交通系ICカードに続く新たな運賃決済手段として、タッチ決済はどこまで広まるだろうか。世界に目をやると、タッチ決済は主流の決済手段となっている。日本クレジット協会の調査によると、2025年3月現在の日本国内におけるクレジットカードの発行枚数は約3億2000万枚。これだけでSuicaを上回っているが、訪日旅行客の持っているカードも考慮すればさらに膨大な枚数が国内で利用されていることになる。
そのうち大半がタッチ決済に対応しているとなれば、鉄道会社も対応すべきという社会的要請があっても不思議ではない。また鉄道会社にとっても、タッチ決済は独自にICカードを発行、管理する手間がないという大きなメリットがある。
鉄道会社の窓口におけるクレジットカードの利用は古くから可能で、国鉄時代の1985年に、メジャーブランドとの提携で発行が始まった「JNRカード」に起源を持つ。これに対し自動改札機における対応は、市中におけるタッチ決済の普及と前後して始まった。
国内で最初に導入したのは南海電気鉄道で、2021年4月3日より一部の駅で実証実験を始めた。首都圏で初めて導入したのは意外にも江ノ島電鉄で、南海より約2年遅れて2023年4月15日に全駅に導入している。
この両社が熱心であった理由は、利用客におけるインバウンド客の比率が高いためだ。南海は関西国際空港に到着する海外からの客が、大阪市内などへ向かうため空港駅の窓口や自動券売機に列を成していた状況があった。
到着したばかりでは交通系ICカードも持っておらず、現金での運賃支払い、もしくはICカード購入が必要となる。それならば多くの利用客が持参しているであろうクレジットカードで直接乗車できれば、窓口の混雑も緩和でき、経費削減にもつながる。コロナ禍の時期でもあり、人的接触を低減する狙いもあった。
南海が実証実験を始めた当初、タッチ決済はVISAブランドのカードのみ対応していた(のちに対応ブランドを拡大)。2020年9月末時点で全世界におけるVISAブランドの対面決済のうち、約43%がすでにタッチ決済となっていたためだ(PDF)。
また、英国やシンガポール、米・ニューヨークなどの公共交通機関ではタッチ決済による乗車が可能となっていた事実もあった。これらの都市では、100を超える国や地域のカードが実際に決済に利用された実績もあり、世界的な流れの中、シームレスな移動の実現のためには導入は必須であったと言えよう。
江ノ島電鉄でも事情は同様で、休日や観光シーズンともなると、券売機がインバウンド客に占拠されたような様相を呈していた。「自国で使っているクレジットカードで、そのままご乗車ください」とPRできるメリットは大きく、読み取り装置など初期の設備投資を行っても、やはり経費削減などの効果は大きいと考えられた。比較的小規模な鉄道であり、運賃体系も単純であるところから、導入へのハードルは低かった。
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