好調に見えるが、課題もある。
リソースが限られている中で、深い領域までの分析ができるデータサイエンティストも少ない。今後はスペシャリストの獲得と合わせて、非エンジニアでも簡単にデータ分析に取り組める環境整備に取り組む。
「まだ、エンジニアではないメンバーが気軽にデータ分析できる環境が整っていません。ID基盤の構築、アプリの機能強化は進んだ一方、今後LTV向上やチケット購入金額の引き上げなどを実現するには、より多くのメンバーが主体的にデータ活用を進める必要があるため、環境整備は強化したいですね」(田邊氏)
現在、グッズ購入のデータ活用はまだ手が付けられていない状況だと説明。来場、チケット購入以外のデータを掛け合わせた、高度なデータ活用を強化していきたいと抱負を語った。
ファイターズはこのデータ活用の取り組みにおいて、BtoB領域でのビジネス拡大を見据えている。スポンサー獲得に、F VILLAGE アカウントがどこまで活用できるのか、現在その可能性を模索する。
「アプリ内で広告メニューを展開したり、既に球場に広告看板を掲出している企業へのサポートを、顧客データを活用して手厚くしたり──さまざまな可能性を考えていきたいです」
既に道内での企業間連携も強化している。セイコーマートと協業し、店舗でFビレッジ公式アプリ内で行える「チェックインチャレンジ」に参加すると、抽選で試合観戦チケットなどが当たるキャンペーンを実施した。田邊氏は「新しい顧客接点を得られることに加え、(セイコーマートへの)店舗誘導にもつながる施策」と説明する。
同社のデータ活用の取り組みは、ファイターズ内の売り上げ増にとどまらない、スポーツビジネス全体の底上げにつながる可能性も秘めている。さまざまな取り組みする中で導き出した、来場を増やすためのインサイトなど、同社のCRM活用のノウハウを、どんどん業界に広めていきたい考えだ。
「将来的には、スポーツビジネスに特化したCRMツールのようなものを開発し、他の球団や他スポーツ業界にノウハウを売るなど、外販の可能性も視野に入れています」(田邊氏)
スポーツビジネスでは多くの企業で、どのような顧客に、どれくらいの回数ホームスタジアムに来場してもらえるかが重要な指標になる。ツールの活用によりこれらをある程度自動で予測し、少ないリソースで効果を出していく必要がある。その際、「来場回数を増やすためのトリガー」など、ファイターズが実体験で導き出したノウハウを、各企業で横展開できれば、各社のマーケティング活動が効率化に貢献する可能性がある。
ファイターズは、2024年に「大航海」、2025年には「大航海は続く」というスローガンを掲げてきた。
ファイターズがデータ活用の先に描く“航海図”は、自社内の売り上げ増にとどまらない、スポーツビジネスの変革をもたらす可能性を秘めているのかもしれない。
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