「女王様」の失敗から挽回するため、竹山氏は季節限定商品を年2回のペースで投入していく方針に切り替えた。実は、「女王様」の味自体の評判は上々だった。この評判に自信をつけたこともあり、価格よりも品質で選んでもらうための商品開発を続けたかったのだ。
高価格への納得感をもたせるため、年2回のペースで限定商品を展開し、顧客の反応を見ていくことにした。
このトライアルを続けた結果、最も顧客の反応が良かったのが「清見みかん酒」だ。秋冬限定で発売したところ、女王様シリーズの年間売り上げの2倍を記録するヒット商品となった。当時、売れ残っていた「女王様」に使うはずだったオレンジ色のキャップを流用できたという裏話もある。
さらに、同商品について「みかんないの?」「もっと大きな容量が欲しい」という顧客の声が多数寄せられる。この要望に応え、180ミリリットルから900ミリリットルに大容量化を決断する。
この大容量化とレギュラー販売によって、清見みかん酒は従来の年間売り上げの3倍を実現し、同社のリキュール事業におけるターニングポイントとなった。
清見みかん酒の成功を足掛かりに、キング醸造はブランドを再構築する。リキュール商品のブランド名として、「HiNODE」を立ち上げ、プレミアム路線への転換を明確に打ち出した。
そして2023年、梅酒やゆず酒が中心だったリキュール売り場に「シャインマスカットのお酒」を投入したところ、決定的なヒットとなった。「シャインマスカットは高くて買えないが、お酒なら買える」というプチぜいたくのニーズを捉え、発売初年度の販売数は計画比264%、2年目は前年の販売実績からさらに231%を記録した。
品質面へのこだわりも継続している。長野県産シャインマスカットを100%使用し、産地を限定。有名ブランド果実にこだわり、品質を高めたことで、選ばれるブランドに育っていった。これは生産ロット規模の大きい大手では難しい、小規模ならではの強みだという。
キング醸造は、今後もリキュール事業で新たなトライアルを続けていく方針だ。1つは「食中酒」だ。フルーツリキュールで獲得した女性客に対し、甘くない酒である「サワーの素」シリーズで、食中酒としてのリキュールの可能性を拡大している。
2つ目は海外市場だ。韓国、台湾などアジア圏内への海外展開も積極的に進めており、サワーの素については既に、韓国で日本国内を上回る販売量を達成しているという。
「女王様」の失敗を分析し、顧客視点での商品開発を続けるキング醸造。今後の商品にも注目したい。
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