日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
本連載では、私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」をひも解いていきたい。
東京都の「火葬料金問題」が注目を集めている。ピンとこない他地域の読者のために説明すると、都心部で6つの斎場を運営する東京博善(東京都港区)が、2024年6月に燃料や人件費の高騰を理由に火葬料金を9万円へ引き上げたことが発端である。
「そりゃ高い! うちの町なら火葬なんて1万円もしないぞ」という反応もあるだろうが、ここで注意したいのは、そのような「安価な火葬」は「公金」によってまかなわれているということだ。
全国の火葬場の約97%は公営であり、その運営コストは自治体が税収などから負担している。これは1968年(昭和43年)の厚生省通知において、火葬場などの経営主体は原則として市町村の地方公共団体とされたからだが、東京都など一部地域でこの通知以前から稼働している「民営火葬場」は除外された。
1921年(大正10年)に設立した東京博善は、その代表的な存在だ。スタッフの人件費、燃料、火葬炉の修繕維持に関する費用は全て企業努力でまかなっている。実際、同じ民営火葬場の「戸田葬祭場」の火葬料金は8万円、「日華多摩葬祭場」も9万円。公金に頼らず火葬場を「経営」するとなると、これくらいの価格設定になってしまうものなのだ。
にもかかわらず、なぜ東京博善だけがやり玉に挙げられているのか。ネットやSNSで「東京の火葬料が高いのは中国資本が価格を釣り上げているから」などと解説する評論家やらインフルエンサーが後を絶たないことが大きい。
東京博善の親会社である広済堂ホールディングス(HD)の筆頭株主で、同社の会長を務めるのは、ラオックスを買収して「爆買い仕掛け人」などと報じられた羅怡文氏(会長CEO)。「火葬料金9万円に値上げ」を結び付けて語ったほうが記事も動画もバズるのは言うまでもない。
そんな「火葬料金」と「中国資本」という2つの問題に直面している東京博善が先日、気になる新サービスをスタートした。それは「夕刻葬」である。
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