市場は長らく、ANYCOLORとカバーを「VTuber事務所」という同一のカテゴリーでくくり、類似した成長曲線を描くものとして扱ってきた。
しかし12月15日時点ではANYCOLORの時価総額が2800億円程度なのに対し、カバーは1000億円と3倍近い差がある。
両社の売上規模はともに500億円前後であり、表面上の数字だけを見ればライバル関係にあるように映るが、経営の効率性には大きな開きがある。
その実態を映し出す指標が「従業員1人当たり営業利益」だ。企業の真の実力は、従業員一人ひとりがどれだけの付加価値を生み出しているかという生産性に直結する。
2026年4月期および直近の財務データに基づくと、ANYCOLORの従業員1人当たりの営業利益は約3000万円に達している。この数値は一般的な上場企業の平均を上回り、トップクラスのコンサルティングファームや金融機関に匹敵する値だ。
対照的に、カバーの同指標は1100万円程度にとどまる。ANYCOLORの3分の1程度の水準で、ちょうど両社の時価総額の差分と近似する。
なぜこれほどの差が生まれるのか。それはカバーが直近で従業員数を約740人規模にまで急拡大させているからに他ならない。ANYCOLORの532人と比較して約4割も多い人員を抱えながら、マネジメントしているタレントの数はエニーカラーより大幅に少ない。
エニーカラーにおける「タレント1人当たり従業員数」は約3.3人だ。これは、200組以上のアーティストを610人の従業員で支える伝統的芸能事務所、アミューズとほぼ同水準の組織構成である。
一方カバーでは、タレント1人当たり約8.2人の従業員を擁している。つまり、カバーはエニーカラーやアミューズの2.5倍以上の人的リソースを、タレント1人のために投じている計算になる。
この手厚い人員配置は、カバーが目指す「世界観の構築」には不可欠なコストかもしれない。だが経済合理性の観点からは、組織の肥大化や意思決定の遅延、そして直接的な収益に貢献しない人員の増加という「規模の不経済」を招いている可能性が否定できない。
カバーはテック企業としての評価を受けながらも、その実態は伝統的な芸能事務所と比較しても、コスト構造が非効率な可能性がある。
「ホロライブ」「にじさんじ」の運営会社、時価総額の差4倍に 決算で見えた“属人性リスク”
「にじさんじ」ANYCOLORが“Google並み”急成長 YouTube不況にも強い納得の理由
書類でよく見る「シヤチハタ不可」、シヤチハタ社長に「実際どう思ってますか?」と聞いたら意外すぎる答えが返ってきた
部下に「仕事は終わってないですが定時なので帰ります」と言われたら、どう答える?
仕事が遅い部下に“あるテクニック”を教えたら、「チーム全体の残業時間」が3割減ったワケCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング