好決算で「17%」急落、ANYCOLORは本当に失速したのか? “夢”追うカバーとの決定的な分岐(3/5 ページ)

» 2025年12月17日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

ANYCOLORは“持たざる経営”、カバーは“持つ経営”

 両社の戦略の分岐点は、投資の方向性にも表れている。カバーは関連ビジネスをすべて自社調達でまかなう「垂直統合型」のモデルを志向していることがうかがえる。カバーの固定資産のうち、VR機材やスタジオ、音響器具などに代表される有形固定資産は41億円で、3Dモデルやプログラムなどの無形固定資産は40億円だ。

 これがどれほど巨額かは、ANYCOLORと比較すれば一目瞭然だ。同社の有形固定資産は23億円とカバーの半分で、無形固定資産に至ってはカバーの20分の1以下である1.7億円しか保有していない。

 カバーの無形固定資産の大半は、独自メタバースプロジェクト「ホロアース」への投資とみられる。数十億円規模の開発費と、それを支える数百名のエンジニア部隊は、現時点では収益を生み出さない巨大なコストセンターとして認識されている可能性がある。

カバーが投資を進める「ホロアース」(出所:カバー 2026年3月期 第2四半期決算説明資料)

 固定資産は原則として減価償却により業績に下方圧力がかかる。実物主義のカバーの利益率がエニーカラーほどまで伸びきらない背景には、メタバースや自社スタジオなどの固定資産における償却負担が利益を抑えているというのも要因だ。

 ANYCOLORはYouTubeなどの既存プラットフォームを最大限に活用し、自社で大きな資産を持たない「アセットライト」戦略を貫く。タレント数は多いが、システム化と効率化により少数のスタッフで運営を回す。この経営スタイルは芸能事務所というよりも、高収益なITプラットフォーマーに近い。デジタル特有の限界利益の高さを享受している証左である。

 一方で、カバーには「在庫リスク」という小売業的な課題も浮上している。同社は2026年3月期第2四半期において、約5.5億円もの棚卸資産評価損を計上した。引退したライバーや需給予測の見誤りによって、製造したグッズが想定通りに売れなかった。その価値をゼロとして処理したと推定されている。

 VTuberといえば「在庫のないデジタルビジネス」だったはずだが、カバーはその最大の利点であるはずの「身軽さ」を犠牲にし、自ら物理的な在庫と物流網で伸び代を縮めている可能性がある。

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