佐久間俊一(さくま しゅんいち)
レノン株式会社 代表取締役 CEO
グローバル総合コンサルファームであるKPMGコンサルティング、ベイン・アンド・カンパニーなどで小売業・消費財メーカーを担当。2022年3月小売業と消費財メーカーの戦略とテクノロジーを専門にコンサルティングするレノン株式会社を設立。著書に「小売業DX成功と失敗」(同文館出版)などがある。
「EC市場は踊り場に入ったのではないか」
コロナ禍による一時的な物販系ECの急成長が一巡し、EC市場の成長鈍化を指摘する声は少なくありません。実際、経済産業省のデータによれば、日本のBtoCのEC市場規模は拡大を続けているものの、成長率はコロナ期ほどの勢いではなくなっています(2024年の物販系ECは前年比で103.7%)。しかし、この状況をもってEC市場が成熟したと捉えるのは早計です。
今市場で起きているのは、EC市場の成長鈍化ではなく、ECの役割そのものが変化していることです。売上規模やEC化率といった従来の指標だけでは捉えきれない構造変化が既に進んでいます。市場規模は緩やかになりつつも、その影響範囲は拡大しているのです。
日本のBtoC EC化率は10%前後に留まり、米国や中国と比べて低い水準にあります。この数字だけを見ると、日本のECは伸びしろが限られているようにも見えます。しかし重要なのは、ECが単なる物販チャネルではなく、物流、広告、決済、データ活用、店舗連携を含む事業基盤へと進化している点です。EC市場は「どれだけ売れたか」から、「どの機能が価値を生んでいるか」を問うフェーズに入っています。
例えばAmazonは、当初よりEC企業という枠を超えた事業展開をしてきた企業です。物販の売り上げに加え、広告や物流、クラウドといった周辺事業が事業全体を支える構造が明確になっています。
つまり、EC単体で利益を取ることを一義としておらず事業全体で勝つことを重視しています。特に広告事業は決算資料でも継続的な成長分野として位置付けられており、ECが「売る場」であると同時に「広告価値を生むメディア」へ変化していることを示しています。「Buy with Prime」に代表されるように、自社のEC・物流基盤を外部の直販ECに提供する動きも加速しています。
Alibabaも同様の動きをしています。中国市場の成長鈍化が語られる中でも、同社はライブコマースや超近隣商圏対応のクイックコマース、インフルエンサーを軸とした販売手法で中国EC市場においてすでに大きな存在感を確立しています。
ECは商品を並べる場ではなく、中小事業者が顧客とつながり、金融や物流まで含めて事業を運営するためのOSとして機能しているのです。市場規模の拡大が鈍化しても、参加者を増やし続ける仕組みを持つECは、依然として成長余地を残しています。
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