慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。
かつての日本では、従業員が会社や工場に出勤し、同じ時間に始業・終業するのが当たり前だった。しかし、現在ではリモートワークやフレックス制といった勤務制度や、フリーランスや副業という働き方が一般化してきた。育児や介護と仕事を両立しながら、働く人も少なくない。
こうした働き方の変化を受けて、2024年から労働基準法の改正が議論され始めた。いよいよ現実味を帯びてきた改正の現在地と、予想される変更ポイントを佐藤みのり弁護士に聞いた。
――そもそも労働基準法とはどういった法律なのでしょうか。
佐藤弁護士: 労働基準法は、労働者を守るための法律です。雇う側(使用者)と雇われる側(労働者)には力の差があり、国が放置していると、使用者にとって都合のいい労働条件が設定され、労働者が人たるに値する生活を営めなくなる恐れがあります。
そこで、労働基準法は「労働契約」「賃金」「労働時間、休憩、休日、年次有給休暇」「安全、衛生」「就業規則」などについて定め、最低限の労働基準を示すとともに、使用者に対し、労働条件の向上を図るように努めることを求めています。また、労働条件の決定は、労働者と使用者が対等の立場で決定するべきであるという総則を掲げています。
――今回40年ぶりの大改正とのことですが、これまでの改正はいつ、どのような変更だったのでしょうか。
佐藤弁護士: 労働基準法は、日本国憲法27条2項の規定を受けて、1947年に制定されました。当時の労働基準法は、労働時間について1日8時間・週48時間と定めていました。それが、今から約40年前の1987年の改正で、1週間の法定労働時間が48時間から40時間へ、段階的に短縮されることになりました。これは、日本における労働時間規制において、画期的な政策決定でした。1987年の改正では、フレックスタイム制の導入がなされるなど、大きな改正となりました。
――なぜ今、40年ぶりの大改正が議論されているのでしょうか。
佐藤弁護士: 昨今、デジタルデバイスの発展や、コロナ禍によるリモートワークの導入などにより、労働者の働き方は急速に変化しています。
そこで、厚生労働省は、従来の解釈変更による対応だけでは限界があり、法律そのものを改正する必要があると判断しました。2024年1月、有識者で構成された「労働基準関係法制研究会」が開かれ、2025年1月に同研究会による労働基準法の改正案をまとめた報告書が公開されました。
――改正に向けて、現時点の状況を教えてください。
佐藤弁護士: 現時点で法案は成立しておらず、労働政策審議会(労働条件分科会)で議論が進められているところです。
「労働基準関係法制研究会」がまとめた報告書では、労働時間法制の具体的課題として、最長労働時間や休憩、休日に関して検討されています。また、総論的課題として、労働基準法における「労働者性」や、労働基準法における「事業」の概念、労使コミュニケーションの在り方についても言及されており、労働基準法の抜本的な見直しにつながる内容になっています。
――現時点で改正が見込まれ、企業が影響を受けるであろうポイントを教えてください。
佐藤弁護士: 主なポイントは以下の5つです。
現行の労働基準法では、1週間のうち少なくとも1日の休日を付与することが義務付けられています。ただし、業務の都合により困難と判断した場合には、「4週間を通じて4日の休日を付与」すればよいことになっており、理論上、連続48日勤務も可能です。
しかし、連続勤務は健康管理の上でリスクが高いことから、労働基準関係法制研究会では、週14日以上の連続勤務を禁じる趣旨の検討がされています。
勤務間インターバル制度は、終業時刻から次の始業時刻までに一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保するという制度で、2019年4月に導入されました。労働者が適切な生活時間や睡眠時間を確保できるようにすることが目的ですが、導入が「努力義務」だったこともあり、多くの企業に広がりませんでした。
そこで、労働基準関係法制研究会では、インターバル制度の定着を目指し義務化が検討され、インターバル時間を原則11時間とすることが示されています。
年次有給休暇を取得するときの賃金算定の算定方式について、現行法では「平均賃金方式」「通常賃金方式」「標準報酬日額方式」の3種類があります。企業はいずれかを選び、就業規則で定めることが義務付けられています。
このうち、「平均賃金方式」と「標準報酬日額方式」を採用すると、日給制や時給制で働く労働者は、大きく減額されてしまいます。そこで、労働基準関係法制研究会は、「通常賃金方式」の原則化について検討しました。
「つながらない権利」とは、労働時間外に、業務上のメールや電話への対応を拒否できる権利を意味します。労働者の心身の健康を維持し、ワークライフバランスを実現するために重要なものですが、日本では権利として認めた法律はなく、具体的な施策は講じられていません。
そこで、労働基準関係法制研究会では、「勤務時間外にどのような連絡までが許容でき、どのようなものを拒否できるかといった社内ルールを労使で検討していくことが必要」として、ガイドラインの策定の推奨が提言されました。
特定業種のうち、労働者が常時10人未満の小規模事業場においては、法定労働時間を週44時間まで延長できる特例が認められています。
しかし、この特例を利用している事業場は少なく、特例措置は役割を終えたと考えられ、労働基準関係法制研究会では、特例の廃止が検討されました。
厚生労働省は、当初、早ければ2026年春の通常国会で法案提出を検討していました。しかし、高市早苗首相の労働時間規制の緩和検討指示により、先行きが見えにくくなっています。企業は、どのような内容の法案になるのかも含め、今後の行方を注視しましょう。
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