2025年、日本は激動の渦中にあった。大阪・関西万博が熱狂を生んだ一方、政治の舞台では高市政権が発足。「経済安全保障」や「国力」がこれほどまでに問われた年はなかった。
さまざまな領域で日本を支え続けてきたのがNECだ。万博会場では来場者が「顔パス」で入場し(【NECが万博で展開する顔認証 DXで培った「入場から決済まで」できる技術】参照)、サイバー空間ではKDDIとタッグを組んで「能動的防御」の盾となっている。一方でAIの世界では、NECが開発したAIエージェント「cotomi Act」によって、Webタスク処理でついに「人間超え」のスコアも叩き出した。
エンターテインメントから国防や安全保障、そしてAIの極北まで――。全方位で攻勢に出た2025年をどう総括し、2026年以降、NECは日本をどこへ導こうとしているのか。森田隆之社長に、その戦略を聞いた。
森田隆之(もりた・たかゆき)1983年にNECに入社、2002年に事業開発部長、2011年に執行役員常務、2018年に副社長、2021年4月に社長に就任。6年間の米国勤務や2011年からの7年間の海外事業責任者としての経験も含め、海外事業に長期間携わってきたほか、M&Aなどの事業ポートフォリオの変革案件を数多く手掛け、半導体事業の再編や、PC事業における合弁会社設立、コンサルティング会社の買収などを主導した。2021年5月には、30年に目指すべき未来像「NEC 2030VISION」と2025中期経営計画を公表した。65歳。大阪府出身(以下撮影:河嶌太郎)――2025年は関西万博や高市政権の発足など、激動の1年でした。NECにとってはどんな年でしたか。
関西万博での成果は大きかったですね。顔認証による入場管理は、当初の想定よりもはるかに多くの方々に利用されました。特に夏パスの期間中、ピーク時には来場者の50%以上が顔認証で入場され、その利便性を肌で感じていただけたと思います。顔認証決済を含め、期間中にシステムトラブルが一件も起きなかったことは、当社の技術への信頼を裏付ける大きな成果でした。
ビジネス変革ブランド「BluStellar」(ブルーステラ)についても、11月のNEC IR Dayなどを通じて、その真価をお伝えできたと考えています。セキュリティ領域では、5月に発表したKDDIとの協業や、11月の次世代サービス「CyIOC」、そして能動的サイバー防御を担う合弁会社「United Cyber Force」の設立など、「国を守る」ための準備と体制を明確に打ち出せました。
また、AI領域においては、エージェント技術「cotomi Act」が、国際的なベンチマーク「WebArena」で人間を超えるタスク成功率を世界で初めて達成しました。顔認証技術についても、NHKの番組でも取り上げられるなど、他社と明確な差異化が図れた1年でした。
――経済安全保障の文脈でも、NECの存在感が増しています。
NECは殺傷能力のある武器は造りませんが、(海中を探知する)ソーナーや航空警戒監視といったセンサー技術、そして世界シェアトップ3の一角を占める海底ケーブル事業など、デュアルユース技術の重要性はますます高まっています。JAXAとの光通信衛星コンステレーションに向けた技術開発への採用も含め、「自国を守る」ための技術基盤としての役割を、世の中にしっかり発信できたと自負しています。
組織面では、3月にNECネッツエスアイを完全子会社化し、地方DXを強力に推進する体制を整えました。技術、安全保障、組織再編と、全方位で着実な進展があった1年でした。
――万博で落合陽一さんが手掛けた「null2」パビリオンでは、次世代の認証技術も披露しましたね。独自の顔認証技術を今後どう発展させていきますか。
「null2」での取り組みは、非常に示唆に富むものでした。そこで活用したのが、デジタル証明書「FaceVC」(Verifiable Credentials)です。
これまでのように事業者が個人の生体データそのものを保有することは、ユーザーにとって心理的な抵抗がありますし、事業者にとっても漏洩(ろうえい)リスクという重荷になります。FaceVCは、自分の顔認証データがどこで使われているかを、個人が主権を持って管理できる仕組みです。
この技術は、将来のAI活用とも密接に関わります。例えば、自分の代わりに仕事を探したり、専門家とマッチングしたりする「AIエージェント」が活躍する時代において、そのエージェントが「確かに本人である」と証明するクレデンシャル(信用情報)が必要になります。
究極の個人認証はやはり生体認証ですが、それを他人に預けるのではなく、自分でコントロールする。NECの技術であれば、そうした「個人主権」のデジタル社会を実現できると確信しています。
NECが万博で展開する顔認証 DXで培った「入場から決済まで」できる技術
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