生成AIの熱狂を経て、2026年は「フィジカルAI」が覇権を争う主戦場となる。日立製作所、NEC、富士通の経営陣は、実社会の「現場」や「身体性」に日本の勝機があると口をそろえる。
インフラ制御の日立、生体認証のNEC、そして空間認識の富士通──。各社が持つフィジカルなアセットとAIを融合させ、米巨大テック企業には模倣できない「日本流」の勝ち筋をどう描くのか。3人のリーダーに、社会実装へのロードマップを聞いた。
1回目:NEC社長に聞く「フィジカルAI」の勝算 「AI・DX事業で1兆円」への手応えと課題は?
2回目:富士通社長「フィジカルAIこそ日本の勝ち筋」 NVIDIAと挑む“脳”の開発
3回目:本記事
学研が挑む"真のDX"──「本当に使われるデジタル」で目指す教育価値のバリューアップ
【開催期間】2026年1月27日(火)〜2月25日(水)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録
【概要】学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。
政府は2025年12月23日の閣議で、AIの開発・利活用に関する初の「基本計画」を決定した。人工知能基本計画にはAIとロボットを組み合わせた「フィジカルAI」と呼ぶ新技術の開発に、国が本格的に取り組むことも掲げている。
近年のAI技術の進歩は目覚ましく、これまでは主にデジタル空間で発展してきた。業務システム、検索、翻訳、生成AIなどはその代表例だ。そして今、AIをロボットや車両などに組み込み、現実世界で動かす「フィジカルAI」への関心が急速に高まっている。
富士通の時田隆仁社長(隆は「生」の上に「一」)が、「ロボットが人に応じて振る舞う技術を、共通プラットフォームとしてあらゆる産業に展開することが重要」と話すように、少子高齢化による労働力不足、産業現場の省人化、都市の安全性向上といった社会課題を背景に、フィジカルAIは次の産業インフラになり得る存在として期待されている。
【富士通社長「フィジカルAIこそ日本の勝ち筋」 NVIDIAと挑む“脳”の開発】に引き続き、フィジカルAIが直面する本質的な課題、富士通が描く展望を見ていく。
富士通が2025年12月の「Fujitsu Technology Update 2025」で打ち出したフィジカルAIは、AIエージェントとロボットを米NVIDIAの技術によってシームレスに連携させ、製造・インフラ現場の業務を自動化させる技術である。今後のビジネス戦略の要となりそうだ。
フィジカルAIは、すでに工場や倉庫、自動運転の実証などで活用が進んでいる。しかし、それらの多くは、通路や動線、作業手順があらかじめ決められた、いわば「管理された現実」においてだ。
これに対し、人が生活する住宅、オフィス、商業施設、公共空間とは、本質的に非構造的なものといえる。人は予測不能に動く。物の配置も頻繁に変わり、突発的な出来事が常に起こる。そのような空間の中でロボットが安全に、かつ効率的に動くためには、単なる障害物を回避するだけでは不十分なのだ。つまり「誰が、何を、なぜしているのか」を理解する必要がある。
複数の人やロボットが同時に存在する環境では、他者の行動が自分の行動の前提条件になる。従来型のロボットでは、自身のセンサーで見えている範囲を元に最適化を行うため、空間全体としての調和を取ることが難しい。
つまりフィジカルAIの課題は、「精度」や「計算能力」ではなく、「空間理解」にあるのだ。このような課題に対し、富士通のヴィヴェック・マハジャン副社長は、「単体ロボットではなく、複数ロボットのコアな行動と制御を実現するため、空間全体を拡張的に捉えるワールドモデルの研究開発を進める必要がある」と話す。富士通は2025年4月、「空間ロボティクス研究センター」を設立し、人とロボットが協調する社会の実現に向けて、研究を本格化させた。
複雑な実空間を把握するコンピュータビジョン技術をベースに、実用的なフィジカルAIを実現する「空間World Model技術」を開発したのだ。
2025年12月の「Fujitsu Technology Update 2025」で講演した富士通のヴィヴェック・マハジャン副社長。「単体ロボットではなく、複数ロボットのコアな行動と制御を実現するため、空間全体を拡張的に捉えるワールドモデルの研究開発を進める必要がある」と話す空間World Model技術は、空間そのものを一つのモデルとして理解しようとする試みだ。この技術の核は、人・ロボット・モノの相互作用に着目した3Dシーングラフにある。3Dシーングラフとは、空間内の人やモノの関係性を、構造化した地図のようなものだ。
従来のように映像を画素単位で処理・統合するのではなく、「人」「ロボット」「物体」という意味的な単位によって空間を構成要素として捉える。これにより、固定カメラと移動カメラの歪みや視野差といった問題を回避しつつ、空間全体の状態を一貫した形式で把握できるのだ。
さらに、これを時系列で学習することによって、空間の変化そのものをモデル化するという。人がどこからどこへ移動しやすいか、どんな状況で立ち止まるか、ロボットがどのタイミングで回避行動を取るかといった振る舞いをデータとして蓄積し、未来の状態の予測に使う。これは単なるセンサーの融合ではなく、「空間を理解するAI」を作る試みなのだ。
フィジカルAIの難しさは、物理法則の理解よりも、人間の行動理解にある。人は合理的に動くとは限らず、感情、習慣、社会的文脈に左右されてしまう。例えば、急いでいる人と散歩している人とでは、歩行パターンが異なる。同じ場所でも時間帯によって人の流れは変わるものだ。
空間World Modelは、こうした人の行動の背後にある「意図」を直接理解するのではなく、行動の相関関係から推定するという。3Dシーングラフの時系列から、人・ロボット・モノの関係性の変化を捉え、「次に起こり得る行動」を確率的に推定する仕組みだ。
このアプローチは、人の内面を解釈するのではなく、空間に現れる行動パターンとして扱う点に特徴がある。これにより、倫理的・プライバシー的な問題を回避しつつ、実用的な予測を可能にしている。
カメラ映像からの空間把握と空間内の人・ロボット・モノの未来の状態を予測する空間World Model(富士通のプレスリリース「人とロボットが共存・協働する未来を拓く 空間World Model技術を開発」より)富士通はこの技術を、米ラスベガスでのテクノロジーイベント「CES 2026」のAmazonブースで、展示し、注目を集めた。富士通の事業モデル「Uvance」が提供するデータと、AIを活用した次世代モビリティの取り組みを、Amazon Web Services(AWS)と共に展示した形だ。
富士通はAWSと連携し、ソフトウェアで機能が進化する自動車(Software Defined Vehicle、SDV)やソーシャルデジタルツインを活用した都市・交通シミュレーションにも取り組んでいる。空間World Modelの考え方は、ロボットに限らず、都市全体の振る舞いを理解するためにも応用できる。交通、人流、イベント、災害などを含めた都市のダイナミクスをモデル化することによって、より安全で効率的な都市運営が可能になるのだ。
このようにフィジカルAIは、ロボット産業だけでなく、都市インフラ、モビリティ、公共政策にも波及する技術になり得る。
富士通はフィジカルAIを単体のロボット知能としてではなく、クラウドや業務システム、AIエージェントと接続した存在として設計している。
NVIDIAとの協業による「Fujitsu Kozuchi フィジカルAI 1.0」では、NVIDIAのソフトウェアスタックと富士通の技術を統合した。フィジカルAIやAIエージェントをシームレスに連携させることを目的とした基盤だ。コア機能としてマルチAIエージェントのフレームワークを公開し、業務ワークフローの自動化・効率化を支援する特化型AIエージェントを搭載している。
これにより、フィジカルAIは単に動くだけでなく、「業務の一部」として振る舞う存在になるという。例えば、現場で収集した情報を業務システムに反映し、業務計画の見直しや改善につなげるといった循環が可能になる。時田社長は、フィジカルAIの本質的な進化は、「より速く動くこと」ではなく、「人と同じ空間で違和感なく振る舞えることにある」と捉えているようだ。
「ロボット同士が自律的に動くこともさることながら、そこに人間がどう関わるか。これは、ヒューマンセントリック(人間中心)を掲げる富士通のR&Dの軸になっています。人間とロボットやAIが、いかにして共生していくか。これは基本的な問いですが、そうした課題意識を当社の研究員は大切にしています」(時田社長)
空間World Modelは、フィジカルAIを「個体の知能」から「空間の知能」へと拡張する試みだ。ロボットが空間の一部として振る舞い、人の行動を補完し、支援する存在になる。そのための前提条件が、空間理解と行動予測にあるのだ。
これまでロボットの導入が進まなかったのは、ロボットが「融通の利かない存在」だったからだ。決められたレールの上しか走れず、人が飛び出せば緊急停止するしかない。それでは、さまざまな物が入り混じった日常空間で共存することなど不可能だった。
富士通の空間World Modelは、ロボットに「状況を理解する力」を与えようとしている。それは言わば、「空気を読む」能力だ。人が急いでいれば道を譲り、混雑していれば遠回りをする。この「気遣い」にも似た振る舞いこそが、フィジカルAIを社会インフラとして定着させるためのラストワンマイルとなるだろう。
富士通のパーパスは「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」だ。そのヒューマンセントリックな哲学は、フィジカルAIという最先端の領域でもぶれることはない。ロボットが単なる機械ではなく、良き隣人として社会に溶け込む未来。その実現に向けたOS(基本ソフト)を、着実に書き上げようとしている。
【イベント情報】学研が挑む"真のDX"
学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。
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