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人手不足でも「省人化しない」 リッチモンドホテルがDX時代に“人へ回帰”するワケ

» 2026年01月29日 07時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 インバウンド需要の回復とともに、ホテル業界では人手不足が依然として深刻な課題となっている。

 帝国データバンクの調査によると、2025年1月時点で正社員の人手不足を感じている企業の割合は旅館・ホテルで60.2%に達した。ピーク時の2023年1月(77.8%)からは改善したものの、全業種平均(53.4%)を約7ポイント上回る高水準が続いている。宿泊現場ではフロントや調理スタッフの確保が難航し、稼働率を制限せざるを得ないケースも出てきた。

 リッチモンドホテルを運営するロイヤルグループのアールエヌティーホテルズは、この難局に独自のアプローチで挑んでいる。スポットワークの利用やフロントの無人化ではなく、海外現地からの直接採用や、裏方業務に特化したシステム開発に舵を切った。

 業界全体で「省力化」が叫ばれる中、なぜ同社はあえて「人への回帰」を掲げるのか。【リッチモンドホテル浅草が「客室削減」の大胆リニューアルに踏み切ったワケ】に引き続き、本山浩平社長に、現場起点の組織戦略を聞いた。

photo 本山浩平(もとやま・こうへい)1978年生まれ。2003年にロイネットホテルへ入社。2008年「リッチモンドホテルプレミア武蔵小杉」開業支配人。2016年ロイヤルホールディングス財務・IR担当。2021年にアールエヌティーホテルズ代表取締役社長に就任。2025年3月よりロイヤルマイナーホテルズ代表取締役社長を兼任。福岡県出身

スポットワークは限定的、人員は充足傾向に

――人手不足が続く中で、採用や人員確保はどう対応していますか。タイミーなどのスポットワークは活用していますか。

 スポットワークは、宿泊部門では今ほとんど活用していません。清掃で一部活用している部分はありますが、宿泊の現場で常態的に使うことは、現状ほぼないですね。コロナ明け直後と比べると、人員は数としては充足してきています。

 加えて、海外人材の登用を積極的に進めています。以前は日本国内にいる海外の方を採用するケースが中心でしたが、2024年からは、現地に住んでいて日本のホテルで働きたい人を、Web面接をして、採用する取り組みも強化しています。出身国としては、ホテル領域だと台湾や中国など、近隣の国・地域の方が多い印象です。

――海外人材を受け入れる上で、工夫している点や気を付けている点はありますか。

 海外で働くことは、本人にとって本当に大変なことですので、受け入れ側のサポート体制が重要です。特に特定技能の人材は、定期面談や各種報告なども含めて支援が必要になります。以前は外部企業にお願いしていた支援業務を、ロイヤルグループで内製化する形に切り替えました。国から登録支援機関としての認可も得ており、支援を含めて自社で対応できる体制を整えています。

 また、語学に不安がある従業員に対しては、Webを活用した日本語の追加学習の機会を会社として提供するなど、現場で安心して働けるように支援しています。

DXで現場は「人にしかできない価値」へ

――ホテル業界全体でDXやデジタル化が進んでいます。この動きをどう捉えて、どの領域から進めていますか。

 総務などバックオフィス領域は、私どもだけではなく、多くの企業が今いちばん取り組んでいるところだと思っています。基本的にはバックオフィス業務をデジタル化、システム化していくことをロイヤルグループ全体でも進めており、AIも含めて順次取り入れている状況です。

 一方で事業、つまりホテル運営の現場においては、「人は人にしかできないことをやりましょう」という考え方を大事にしています。料理でいえば、最後のひと振りで味を整える作業が置き換えにくいのと同じで、ホテルでも利用者との接点だけは機械に置き換えられない部分です。逆にそこへ人が集中できる環境を作るために、裏側の業務を、システムを使って減らしていく発想を持ちながら取り組んでいます。

――現場で、特に減らしたい業務は何でしょうか。

 2023年、フロントスタッフの業務量調査をした際に、対人ではない業務、つまり事務作業が占める割合が6割もありました。フロントで働きたいと思って応募してくれた人たちは、宿泊者との接点やおもてなしをやりたくて入ってきているはずです。ですので、裏側の作業をこれだけ担わせていたのは、あらためて課題だと認識しました。

 裏側の作業というのは、例えば裏で電話を受ける作業や、次の日の予約を確認して手配するといった、確認業務が主になります。利用者と向き合う仕事のイメージで入ってきた人たちに、実際はそうした裏方作業を多く担わせてしまっていた実態があります。

システムは独自開発 「ホスピタリティの型」を落とし込む

――裏側の作業を減らすために、具体的にどんな仕組みを作っているのですか。

 裏側の作業はシステム化できるのではないかということで、今はベンダーと提携しながら、独自でシステム開発を進めていて、機能も順次リリースしています。

 代表的な例で言うと、これまではあるホテルで受けた利用者のリクエストを、別のホテルでも叶えるために、従業員が顧客情報を見て判断して部屋割りを調整するといった運用をしてきました。

 ただ一般的な部屋割りのシステムは、言葉を選ばずに言えば「ただ割り付けること」が中心で、その利用者に合った配慮まで落とし込めるものはまだ少ないと感じています。そこで、私どもが考えるホスピタリティを業務フローとして実装し、毎回同じ品質で提供できるようにする方向性で対応しています。

――部屋割りなどの個別対応は、自社サイト予約なら情報が取りやすいと思います。しかし実際は旅行会社経由の予約が多い中で、どうやって顧客体験を向上させているのですか。

 基本的には「名寄せ」をする形で対応しています。名寄せというのは、利用者名ともう一つ別の要素を使って同一人物として特定していき、その情報をもとにCDP(顧客データ基盤)を作っていくやり方です。非会員の方であっても、社内的にはバーチャル会員化して、どの予約サイト経由でも同じような顧客体験を提供できるようにしています。

 これまでこの作業は、従業員が一生懸命履歴を調べて対応していた部分が大きかったです。そこをシステムによって、一気通貫でできるようにしていくのが狙いです。

勤怠は「生体認証とクラウド」で運用を標準化

――客室清掃の領域でもデジタル化は進めていますか。

 清掃も進めています。今後は清掃スタッフに1人1台iPadなどを支給し、例えば忘れ物を紙で管理する作業を、写真とデータによって一気通貫でできるようにする想定です。部屋の不備なども含めて情報をデータ化し、最終的にはアプリ開発につなげて、利用者に忘れ物があった場合に自動通知できるようなところまで広げていければと考えています。

――忘れ物なのか宿泊者が部屋に捨てていったものなのかは判別がつきにくいですよね。ホテル側が宿泊者に連絡まですることには、リスクもあると思います。その点はどう見ていますか。

 確かに忘れ物かどうかの判断が難しく、余計な連絡になってしまうリスクがあるのは事実だと思います。ただシステム化することによって、人が張り付かずに通知や確認の導線を作れます。

 例えば電話ではなくメールで利用者にシステム的に連絡するような形にすれば、ホテル側も処分など次の判断がしやすくなります。結果として顧客体験を良くする方向に働くと考えています。

――例えば勤怠など従業員管理のデジタル化についてはいかがですか。

 勤怠などは、もうほぼデジタル化していますし、生体認証もかなり前から使っています。当社の場合、指の静脈認証で打刻する形のクラウド勤怠管理システムを使っています。

拠点増に備え「バックオフィス集約」

――店舗数、ホテル数が多い中で、全体の効率化はどう進めていますか。

 ホテル単体で効率化しようとしても限界がありますので、バックオフィス業務はグループ全体で統一して運用しています。ロイヤルグループとしてシェアードサービスの会社があり、経理や総務、人事などを一括して担うことで、拠点数のボリュームを生かした効率化ができる考え方で進めています。

――生成AIの活用は、どのあたりから進めていますか。

 例えばメール対応のように、定型化できる部分は一部あると思っています。ですので、そうした領域から進めています。ただ、現時点では基本的にAIに学習をさせている段階であり、現場への導入には至っていません。

――中国の団体旅行自粛の影響で、京都などの一部のホテルでは宿泊料金の下落も起きています。リッチモンドホテルズではレベニューマネジメントは、どのような仕組みで運用しているのでしょうか。

 レベニューマネジメントについてはパッケージシステムを使っています。このツールでは販売されている価格の平均や、競合設定しているホテルの値上げ・値下げの動きなどが即時に分かるようになっています。

 一方で、コロナ明けは需要が乱高下したので、平時のデータが十分にたまらないとシステムが有効に機能しにくい難しさもありました。ようやく今、平時のデータがたまってきた感覚です。

 また、著名アーティストによるドームコンサートのような、突発的な需要に対しては予測が難しく、そういった局面ではシステムだけでは弱いのが現状です。だからこそ、どの領域でも機械に任せっきりにせず、「システム+人」が重要だと考えています。

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