一方で、直接数字に反映されない貢献を、会社の評価の枠に入れ込むのは難しいという、「評価の死角」問題もあります。「会社の評価制度から漏れてしまうけれど、現場に欠かせない人」をどう評価するか? 彼らは縁の下の力持ちであり、その力こそが「心理的安全性」という成果です。
「仕事ができる」と称賛されるハイパフォーマーの成果の何割かは、実はこうした潤滑油となるキーパーソンが肩代わりした調整や、作り上げた土台によって、底上げされているという不都合な真実があります。現在の評価制度は、縁の下の力持ちたちのやりがい搾取でしかありません。
皮肉なことに、今では諸悪の根源とされる、昭和の年功序列や年功賃金は、そういった目に見えない貢献を評価するシステムでした。“彼ら・彼女ら“を評価の網から決して落とさない、極めて緩やかで、かつ機能的な人事評価システムだったのです。
何も「昔に戻れ!」と言っているわけではありません。ただただ、今、こうした「見えない貢献」を、現代の評価指標として再定義する知恵が会社組織や人事に求められていると思うのです。
そのヒントになるのが、古典的な職業ストレスモデルの一つである「ERIモデル(努力−報酬不均衡モデル)」です。
これは、ドイツの社会学者ヨハネス・シグリスト氏によって提唱されたモデルで、仕事上の努力とそれによって得られる報酬のバランスが崩れると、心理的苦痛が引き起こされるというもの。「努力しているのに報われない状態が続くと、それが慢性ストレッサー(ストレス要因)となる」という、誰もが「そうそう!」と納得できる一般の感覚に近いモデルです。
ERIモデルでは報酬を、
という3つに分類しています。
このうち「心理的報酬」には、上司からのねぎらいの言葉なども含まれ、時には金銭以上の報酬の価値になるケースも存在します。あくまでも私の感覚ですが、40代後半以上の、会社内での自分の行く末も見えてきた人たちは「心理的報酬」、30代後半〜40代前半は、キャリアの報酬が心理面に強く影響します。
「ちゃんと見ていてくれたんだ」と思える評価は、やる気や職務満足感を高めます。何ができて、何ができないのか。そして、その人が組織のために何に心を砕いているのかまでを見届けること。それこそが、令和の時代に「消えた潤滑油」を再生させ、組織を焼き付きから救う唯一の処方箋なのかもしれません。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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