グローバルヒットを連発する韓国のHYBE。その日本本社であるHYBE JAPANが、これまでの「K-POP輸入モデル」とは一線を画す挑戦を始めている。
東京・新宿住友ホールで3月16日まで開催中の五感没入型の楽曲体感ミュージアム「House of Vampire〜Dive into ENHYPEN Chronicle〜」。グローバルグループENHYPENのファン向けの展示イベントの裏側には、緻密なカスタマージャーニー設計と、LTV(顧客生涯価値)向上に向けた計算が隠されている。
韓国拠点のアーティストは、日本に滞在できる時間が物理的に限られる。この「アーティストの不在期間」に、いかにしてファンとの接点を維持し、熱量を高め続けられるか。そして、韓国発のIP(知的財産)やコンテンツに依存しすぎず、日本独自の「体験」を提供することで新しいビジネスを生めるのか。
HYBE JAPAN音楽映像事業本部のイ・スヒョン代表、映像や空間演出を手掛けたIMAGICA EEX(東京都港区)、技術パートナーとして音響や映像を手掛けたヒビノのキーマンたちへの取材を通じ、エンタメビジネスの新境地をひも解く。
左からIMAGICA EEXの鈴木洋介氏(ビジネス局 ゼネラルプロデューサー)、古谷憲史氏(クリエイティブ&テクノロジー局長 兼 CDO)、HYBE JAPAN音楽映像事業本部のイ・スヒョン代表、ヒビノの東田高典事業戦略担当部長(以下クレジットのない写真は撮影:武田信晃)HYBE JAPANのイ・スヒョン事業代表は、同社の社員に対し、常に3つのミッションを説いているという。
今回のミュージアムは、まさにこの「第2、第3の指針」を体現したものだ。従来のファンビジネスは、ライブやグッズ販売など、アーティスト本人の物理的な稼働に収益が直結していた。しかし、物理的な稼働のみに頼る形では、ファンがアーティストに触れられる機会が限定的になってしまうという課題があった。
「世界で活動するアーティストが365日のうち日本にいない期間に、ファンにどう楽しみを提供できるのか。それが発想の起点です」とイ事業代表は語る。
今回のプロジェクトは、ファンがアーティストに“再会”できるタッチポイントを、空間演出やデジタル技術で創出している。ファンが常にアーティストを身近に感じ、熱量をもって応援し続けられる「循環型」の体験を生み、新たなビジネスモデル構築を狙うものだ。
ミュージアムの設計で印象的だったのは、ターゲット層に合わせた多角的なアプローチだ。
まず、コアなファン層に対しては、徹底したディテールを描くことによって感性を刺激する。例えば、場内に設置された時計がデビュー日である11月30日にちなんで「11時30分」を指しているのだ。こうしたファンが喜ぶポイントを各所に配置した。これがSNS上での考察や拡散を生み、二次的な集客を誘発する仕掛けとなっている。
一方で、イ事業代表がスタッフと徹底して共有したのは「ENHYPEN」というアーティスト名を前面に出しすぎないことだ。
「コアファン以外、つまりライトファンやファンでなくてもエンタメ全般に興味がある人たちに、体験型展示として純粋に『ワオ!』と言ってもらえることを最優先にしました。ファンクラブ会員ではない人々が、この体験を通じてアーティストに興味を持ち、将来的にコンサートへ足を運ぶ。つまり、認知からファン化への道筋を構築することが狙いです」
この高度なカスタマージャーニーを支えるのが、パートナー企業が有する日本屈指の技術力だ。HYBE JAPANがパートナーに選んだのは、優れた空間演出と体験設計で知られるIMAGICA EEXと、映像・音響・照明における高度な技術を誇るヒビノだった。
ハイライトとなる「第五章:告白の中庭」で採用されたのは、3D対応LEDシステム「Immersive LED System」。幅10.2メートル、高さ4.8メートルという巨大スクリーンに、ソニー製8Kカメラで撮影したメンバーが映し出される。
特筆すべきは、ヒビノがライセンスを取得した米国Liminal Space社の「Ghost Tile」技術だ。
「従来のVRコンサートは、ゴーグルを装着して自分だけの世界に没入できるのが魅力でした。一方で今回は、最新LED技術と軽量な3Dサングラスを組み合わせることで、友人と『すごいね!』と会話を楽しみながら、感動をリアルタイムで共有できる。ファンビジネスの在り方として『勝てる!』と直感しました」(HYBE JAPAN・町田麻美コンテンツスタジオチーム長)
リアルとバーチャルを融合した空間演出を担ったIMAGICA EEXの視点も、この没入体験の質を左右している。同社の古谷憲史氏(クリエイティブ&テクノロジー局長 兼 CDO)は、開発の舞台裏をこう明かす。
「本当に作り込んだ世界観を表現しつつ、没入感を追求するのはハードルの高さを感じましたが、同時にこれまで世の中にないものを作るというワクワク感がありました」
また、同社の鈴木洋介氏(ビジネス局 ゼネラルプロデューサー)は、空間の見せ方に自信を見せる。
「いろいろな部屋を巡っていく中で、今まで培ってきた映像や空間の見せ方を随所に使っています。例えば、来場者がどこにいてもアーティストが目の前にいるかのように感じさせる演出などです」
技術を「単なる見せ物」に終わらせず、ファン同士のコミュニティ形成やアーティストとの心理的距離を縮める体験にしている点が、HYBE流のジャーニー設計といえそうだ。
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