単純に労働時間を増やすだけでは日本は“無理ゲー”化する、その理由働き方の見取り図(2/2 ページ)

» 2026年03月11日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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必要なのは「長時間労働」ではなく「仕事の密度」

 冒頭で触れたようにクリエイティブ職などでは時間制約が成果にとってマイナスに働く場合もあります。営業職なども、時間制約がない方が動きやすい場合もあるかもしれません。そのため、裁量労働制の適用範囲を広げるなどして時間を気にせず働けるようにする改善は必要でしょう。

 しかし、求められるのは労働時間を増やすことではありません。ある日は仕事に没頭して15時間働き、翌日はリフレッシュも兼ねて付随的な事務作業を中心に1時間だけ働くといった具合に、個人の裁量で時間のメリハリをつけやすくすることです。

 長く働くほど給与が増える、現状の時間連動型の給与体系には大いに問題があります。取り組まなければならないのは、時間当たりの労働や成果の密度を濃くすることです。時間連動型の給与体系だと、成果が出ていなくてもダラダラと残業した方がより多くの生活費を稼げることになります。一方、生産性の観点からは割に合わない仕組みなので、会社としては給与の時間単価を上げるのはためらわれます。

 これからの時代に必要なのは真逆の考え方で、短時間でも成果を出せれば、仕事の時間に縛られず十分な給与が得られるような仕組みへの転換です。

 時間連動型から脱却し、成果や役割など時間内で行った仕事の価値を高める密度連動型の給与体系にシフトすれば、会社としても時間単価を上げることに合理性が生まれます。1月はプラスに転じたものの、ここ数年実質賃金が減少し続けてきた状況を考えても、時間単価の上昇はますます重要になります。

 また、時間当たりの密度が高い働き方をしやすくなると、短時間や短日数でもより高度な仕事を任せることができ、正社員として働ける人材が増える可能性もあります。短時間勤務の代表格はパートタイマーですが、経験も技能も正社員以上で、短時間でも充分な成果が出せる人材だったとしても「パートだから」という理由だけで業務範囲を制限されると、最低賃金に近い水準に抑えられて年収も低くなります。

 共働きによって生じるステルス負担を削減するために仕事工数を減らしたくても、夫婦共にパートになると家庭運営に必要な収入は得にくくなります。例えば、家庭運営に500万円が必要で、正社員の年収が400万円、パートの年収が100万円という単純モデルケースを想定した場合はどうでしょう。

 夫が仕事工数100で正社員として働き、妻が仕事工数50を費やしてパートで働けば500万円に到達しますが、50のステルス負担が生じます。しかし、夫もパートで働けば、仕事工数は50ずつに抑えられるものの、世帯年収200万円となり暮らしが成り立ちません。

photo03 家庭運営の総工数と年収比較その1(筆者作成)

 しかし、短時間正社員として働く道が選びやすくなれば、例えば、夫婦それぞれ仕事工数50、年収200万円ずつを得て世帯年収400万円まで確保するようなモデルも生まれてくるでしょう。仕事密度をさらに高めて時間単価を上げ、年収250万円ずつ得られるようになれば世帯年収が500万円となり、生活費の確保とステルス負担解消の両方を実現できます。

photo04 家庭運営の総工数と年収比較その2(筆者作成)

共働き社会に必要な「働きやすさ改革」

 時間連動型からの脱却に加え、テレワークできる仕事範囲をもっと増やすことも必要です。例えば、月20日×12カ月で年間240日、毎日往復2時間を通勤に費やしているとすると、通勤時間は年480時間にも及びます。実に丸20日分です。この時間が可処分時間に代わり家庭工数や自己研さん、休養などに充てられれば、生活にゆとりが生まれるはずです。

 もちろん夫婦のどちらかが専業主婦・主夫になる家庭があっても良いと思いますし、中には働くことができない状況の人もいます。家庭の数だけ事情はさまざまですが、時間連動型から密度連動型へと給与体系を移行させれば、家庭の事情に合わせた最適な働き方が選択しやすくなります。

 性別や年齢などに制限されず、就労意欲のある人たち全員が生産活動に携わり、家庭運営の収入も一人の大黒柱ではなく夫婦が共に支える形へと社会や家庭の構造が変化している中、労働時間の長短だけにフォーカスした施策では課題解決になりません。

 労働時間の長さではなく密度の高さを評価し、短時間でも収入を高められる仕組みへと転換できれば、誰もが個々の事情に則して働きやすくなります。こうした「働きやすさ改革」こそ、これから進めるべき雇用政策なのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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