最後に「面倒くさい」を回避する取り組みを考えてみましょう。
公的機関は営利を目的としていません。つまり、情報システムにかかる費用は「投資」ではなく、あくまで「コスト」として見なされます。そのため、同じ成果を得るのであれば、できる限りコストを抑えることが求められる構造になっています。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
先ほど「分からない」の項でも述べたように、システム運用によって生まれる課題解決や付加価値の提供は、たとえ営利目的でなくても、公的機関の存在意義と直結しています。言い換えれば、同じコストをかけるのであれば、より高い課題解決や付加価値の実現が常に求められているとも言えるのではないでしょうか。
したがって、システムによってどのような成果や価値を生み出すのかを、あらかじめ適切に定義しておく必要があります。
発注者の立場で言うと、競争性を確保した調達事務の作業よりも、随意契約の事務を進めるほうが労力は小さくなります。コスト圧縮だけを見ると、ベンダーロックインであることを認識しつつも、随意契約を選ぶ方が事務コストは小さくなります。見方を変えると、競争性を確保した調達事務は事務コストの面で合理的ではないということになります。
また、先にも述べたように、仮に既存ベンダーとは異なる新たなベンダーがシステムリプレースを受託した場合、既存ベンダーの暗黙知は新規ベンダーには伝わりません。そもそも既存ベンダーがその暗黙知を積極的に引き継ぐ義務があるわけではなく、発注者自身がその内容を把握し、必要な事項を新規ベンダーへ伝達しなければなりません。ここにも発注者側の事務コストが発生します。
この考え方に至る原因は、事務コストを適正に見積もっていないことにあります。
既存ベンダーと契約することで、発注者の事務コストが軽減されるという考え方が誤りです。いかなる調達方式であっても、また契約相手が誰であっても、一定の事務コストを計上しておくべきですし、発注者側でそれだけの事務作業が発生するのであれば、それらはプロジェクトの総コストの中に含み、比較するべきなのです。
仮に発注者側で事務コストを適正に見積もったとしても、筆者の経験上、システムリプレースに関しては総コストの観点で既存ベンダーが有利になることが多いのは事実です。
しかし、その一方で、既存ベンダーは、システムリプレースによって実現できる新たな成果や付加価値について、積極的な提案を控える傾向も見受けられます。つまり、本当に解決したい課題や新たな価値を実現するためには、全ての事業者に公平に提案の機会を与えることこそが、公共調達の大きな意義だと思います。
さらに最近では、大手SIベンダーであっても、採算が厳しい分野、すなわち公共分野のシステム開発から撤退するケースも出てきています。今の既存ベンダーが今後も変わらずに発注者を支えてくれるとは限らず、決して楽観はできません。したがって、常に新たな担い手を確保できるよう、公共調達の機会は最大限活用すべきではないでしょうか。
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