この記事は『THE BEST WORK 「最高の仕事」を生きる』(原丈人著、サンマーク出版)の内容に一部編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
かつて、ソニーがオーストリアに工場を作った後、転換社債(あらかじめ決められた条件で、いつでも株式に転換できる権利が付与された社債)を発行したことがある。
すると、米国の格付け会社のスタンダード&プアーズはソニーの格付けをA++から一段階落とすと発表した。それに対して怒りをあらわにした人がいる。
「会社が将来に向けた前向きな投資を行うのに社債を発行し、工場をつくったことに対して、格付けを下げる評価をするとはいったいどういうことだ!!」
ソニーの創業者の一人である盛田昭夫さんだ。私は盛田さんからこの話を直接聞いた。スタンダード&プアーズに乗り込み、怒りをぶつけたそうだ。会社が将来に向けた計画のためにお金を借りたことで格付けが落ちるなら、研究開発などせずに何もしないまま現状維持でいるのが正しいのか。
米国式の、会社は株主のものであり、経営において株価や配当の最大化といった株主の利益を最優先するという「株主資本主義」ならばイエスだろうが、かつてのように従業員やその家族、地域社会の未来を大切にしていた「日本式経営」ではノーだ。
JR東海の葛西敬之会長(当時)から聞いた印象深いエピソードがある。2000年に葛西さんが米・ニューヨークで外国人株主向けに経営報告を行った際、ある株主からこんな質問が出たという。
「他の鉄道会社に比べて、短い年数で新しい車両に交換してしまうのはなぜか?」
確かに、償却後の車両を長く使い続ければ、利益は増え、株主はより多くの配当を手にできる。「会社は株主のもの」と信じる米国の投資家からすれば当然の疑問だと言える。だが、ここで葛西さんは、きっぱりとこう答えた。
「我が社は株主利益をもちろん大切にするが、それ以上に大切なものがある。乗客の安全です」
1964年の開業以来、国鉄時代も含めて東海道新幹線は乗客の死亡事故を一度も起こしていない。なぜそれが可能かと言えば、「乗客の安全のために必要だ」と現場が判断した全てのことを叶えているからだ。
経営陣は、どこまでやれば安全なのかはわからない。だからこそ「ここまでやってください」という現場の社員の要求を真摯(しんし)に受け入れる。車両の交換も、そうした判断に基づいている。
利用者が「新幹線には絶対事故がない」と安心して乗ってくれるからこそ、会社は儲(もう)かり、給料も出せるし、株主配当も出せる。
「それを削れと言うんですか!?」と、葛西さんが問いただしても、質問した株主は引き下がらず、「会社は株主のものというのが原則でしょう。あなた、社長のくせにそんなことも知らないのか。失格じゃないか」と迫ってきた。
この株主の主張は「株主の利益を最大にするために、事故を起こせとは言わないが、安全対策もやりすぎるな。地域社会に貢献するのもほどほどにせよ。お金を絞り出して、株主に還元せよ」というものだった。
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