葛西さんは「顧客の安全を守ってくれるのは、株主ではない。従業員だ。だから従業員は大切だ」と一歩も引かなかった。すると、その株主が怒って「社長、退陣だ!」と大声を上げ、葛西さんは「会社の経営方針に納得できないのならば、株を売れ」と冷静に返答したという。
このように対応できるのは、本当に立派だ。目先の利益を増やして株主への配当に回すより、乗客の安全と安心を優先するのが、JR東海の企業としてのポリシー。この「顧客重視」の姿勢が揺るがないからこそ、東海道新幹線の安全は保たれている。
逆の見方をすれば、新幹線の安全性は、JR東海の株価に寄与している。ひいては株主の利益にもつながっている。
そんなJR東海が研究開発を進めるリニアモーターカーは、1962年に研究が始まり、新たな中央新幹線として東京〜大阪間を結び、まずは東京・名古屋間から開業される予定となっている。実に60年以上に及ぶ、壮大なプロジェクトだ。
2010年代、葛西さんは米・ワシントンからニューヨークまで米主要都市をリニア技術で結ぶ「北東回廊プロジェクト」を売り込むために渡米した。
その際、シリコンバレーで行った講演後、投資家からは「そんな遠い将来までの投資を支えるキャッシュ(現金)を生み出しているのなら、それを全部株主に還元してくれ」と言われたという。
このとき葛西さんは、「鉄道事業はたとえ民間の経営であっても、実態は国の関わる公益事業であり、その目的は国民に尽くすこと。株主利益を最大化することが目的ではない」と答えたそうだ。これは、郵政事業、水道事業、空港事業などにも同じことが言えるだろう。
これからも米国流の株主資本主義は変わらない。取り入れる価値のない流儀は受け流せばいい。米国の投資家やアクティビストが押し付けてくる「グローバルスタンダード」とは、世界を米国流に変えること。中長期の計画的な投資がなければ、画期的な研究開発は不可能なのだ。
力のある人、お金のある人、声の大きな人が人々から奪い、さらに強くなっていくのを見ながらどこかおかしい……と思っている人に「誠実な仕事とは何か?」を問い直す。
悩んだとき、葛藤したとき、苦しいときに、自分を「誠実な世界」にとどめるための“11の自問”
世界中の財界人から尊敬を集めるシリコンバレー最高峰の日本人事業家である著者が、死ぬときに後悔しない「最高の仕事を生きる」ために魂を込めた1冊です。
1952年大阪府生まれ。慶應義塾大学法学部在学中から中米考古学を研究。27歳でスタンフォード大学経営大学院MBA課程に入学。その後、工学部大学院に転籍。在学中にシリコンバレーで光ファイバーディスプレイ開発メーカーを創業。1984年デフタ・パートナーズを創業し、ソフトウエア、情報通信、半導体技術、バイオ、創薬等のベンチャー企業やベンチャーキャピタルに出資、経営を行う。国内でも大阪にデータコントロール社を創業し、社長に就任。1990年代には自身がパートナーを務めるアクセル・パートナーズが全米第2位のベンチャーキャピタルとなり、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストとなる。
1985年にスタンフォードで設立したアライアンス・フォーラム財団は現在、国連経済社会理事会の特別協議資格を有する米合衆国非政府機関となり「世界中に健康で教育を受けた豊かな中間層を生むこと」を目的とした活動を40年間にわたり続けている。並行して各国の大統領顧問や国際機関大使等を歴任。日本では、財務省参与(2005〜2009年)、内閣府本府参与(2013〜2020年)、経済財政諮問会議専門調査会会長代理、法務省危機管理会社法制会議議長などを務める。大阪大学、大阪市立大学、香港中文大学、香港理工大学等の医学部や工学部で教授職を歴任した。著書に『新しい資本主義』『増補 21世紀の国富論』『「公益」資本主義』などがある。
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