労働ジャーナリスト。2025年末まで日本経済新聞社に在籍し、編集委員、論説委員、論説副委員長などを務めた。2009〜2021年の12年半、雇用・労働社説を担当。現在は執筆活動および講演活動。複雑な制度の多いこの分野の解説記事を分かりやすく書くことに努めている。日本記者クラブ、日本労働ペンクラブ会員。note「水野裕司のLabor Watch」でも発信。
AIが雇用に影を落とし始めている。米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)は約3万人という人員削減を公表した。AI時代の本格的な到来に備え、経営の効率化を進める狙いがある。
米国ではホワイトカラーの仕事が急速にAIに置き換わるとの見方から、いまのうちから要員削減を打ち出す企業が広がっている。
日本では、みずほフィナンシャルグループが今後10年で、事務職の業務量を最大5000人分減らす方針だ。AIの本格導入によってデータ入力や書類確認の省人化を進める。経済産業省は、生成AIやロボットの活用が進展することで、事務職では2040年に437万人が余剰になると推計している。
AIが雇用に及ぼす影響は、どの職種でどこまで広がるかなど具体的な姿が見通しにくいが、小さくないことは確実だ。
だが、暗い面ばかりではない。
生成AIは使いこなせば、個人が仕事の成果を何倍にも引き上げる武器になる。ホワイトカラーがこれまで多大な時間と労力をかけてきた情報の収集や整理を、瞬時に処理できるようになった。生産性向上の早道である「AI武装」に、企業は積極的に取り組み始めている。
問われているのは雇用の増減ではなく、人が担う役割の再定義だ。各社は、この変化にどう向き合っているのか。
労働政策研究・研修機構は1月20日、AI活用による「人間中心の職場形成」の課題をテーマに「労働政策フォーラム」を開いた。フォーラムでは、ライオンのデジタル戦略部担当者が、社員が生成AIを業務効率化に活用している事例を紹介した。
その具体例の一つが、研究開発本部とデジタル戦略部で開発した、RAG(検索拡張生成)技術を用いたナレッジ検索システム「LINK Chat」だ。
質問を具体的に入力し、生成AIと会話を重ねながら、社内に蓄積された研究開発に関する知見や資料を引き出せる。難航すると1件あたり1時間ほどかかる場合もあった検索が、2分以下で済むようになった。30分の1以下に短縮している。
ライオンは社内各部門の社員が自ら、業務に必要なシステムを作る環境整備にも力を入れている。自律的に作業するAIエージェントをローコードで作成できるプラットフォームを利用する。IT(情報技術)部門の社員でなくても比較的簡単に、AIのシステムを開発できる利点がある。
商品パッケージデザインのシミュレーションや、テレビコマーシャルのストーリー作り、消費者の問い合わせに対する回答文案の作成など、多様な業務に役立つシステムが続々と生まれている。およそ1000に上る職務内容を登録し、各部署で必要とされるスキル(技能)を調べたり、自分のスキルにあった部署を探せたりするキャリア形成支援のシステムもある。
AIを「まずは仕事に使ってみる」段階から、現在は「いかに業務プロセスに組み込んでいくか」という段階に移った。ライオンの業務改革は着実に進化を続けている。
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