FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。
“売上高の何十倍”もの値札が付くことを「妥当」と言える企業は、何が違うのだろうか。
2026年4月1日、米SpaceXは米証券取引委員会に非公開で新規株式公開(IPO)申請を行ったと報じられた。IPOの目標時価総額は1.75兆ドル(約280兆円)で、調達額は最大750億ドル(約11兆円)にも上る。
実現すれば、2019年に1兆7000億ドルでIPOした、サウジアラビアの国有石油会社サウジアラムコを超える史上最大のディール(取引)となる。幹事証券にはゴールドマン・サックス、JPモルガン、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカといったウォール街の巨人が名を連ね、NASDAQ市場へ上場することを目指していると報道されている。
だが、時価総額280兆円という数字を前にしてただ興奮するだけでは、いささか物足りない。本稿ではまず、この値付けの妥当性を冷静に検討したい。
その上で、SpaceXのケースから、経営判断の材料として「市場が売り上げの何十倍もの値段を付ける企業は何が違うのか」を考えてみたい。
まず、数字の規模感を整理する。
2026年4月時点の世界時価総額トップは、米NVIDIA、米Appleの2社が3兆〜4兆ドル(450兆〜600兆円)で競っている(4月16日現在)。
SpaceXの1.75兆ドルはその約半分だが、Amazonの2.5兆ドルにほど近い時価総額まで迫っている。世界最大の企業が2兆〜4兆ドル前後であることを考えれば、1.75兆ドルという数字の異質さがうかがえるだろう。
イーロン・マスク氏は2025年半ばの時点で、SpaceXの年間売上高を「約155億ドル」と開示している。
仮に2026年の売上高が多少成長して200億ドルに達したと推定しよう。この場合、PSR(株価売上高倍率)は87.5倍となる。つまり、今のSpaceXの時価総額は、87年と6カ月分の売上高を先取りした価値がついているということになる。
NVIDIAのPSRが約25倍、AmazonのPSRが約10倍であることを踏まえれば、87倍というPSRがいかに期待先行であるか理解できるだろう。
では、この期待先行はバブルの証なのだろうか。
鍵となるのが、衛星インターネット事業の「Starlink」だ。
Starlinkの売上高は2025年に約118億ドルに達する見通しで、SpaceX全体の約7割を占めるまでに成長した。そのうち米国政府との契約だけで30億ドル規模であり、ペンタゴン(米国防総省)がウクライナ軍向けに5.37億ドルの運用契約を結んだことも新たに判明している(SpaceNews,Starlink set to hit $11.8 billion revenue in 2025, boosted by military contracts)。
ここで注目すべきは、売り上げの質が変化している点だ。ロケット打ち上げは1件ごとの受注であり、いわば買い切り型のビジネスだ。一方でStarlinkは月額課金のサブスクリプションモデルであり、解約されない限り、売り上げは積み上がり続ける。
日本の大手通信企業にとってもStarlinkが経営戦略における存在感を高めている。
NTTドコモは4月27日にStarlinkを活用した衛星直接通信サービス「docomo Starlink Direct」を開始し、対象となる約2200万人の契約者に当面無料で提供する。
KDDIは2025年4月に先行参入済みで、ソフトバンクも2026年度中の提供開始を表明している。
日本の携帯キャリア3社がいずれもStarlinkに依存する構図は、SpaceXが単なるロケット企業の枠を超え、通信インフラの上流を握るプラットフォーマーへと変貌しつつあることの証左だ。
この構造変化こそが「PSR87倍」の合理的な根拠として市場が織り込んでいるのかもしれない。
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