「中東の影響続けば180億円下振れも」 三菱ケミカルを襲った地政学リスク、社長が語る「次の一手」

» 2026年05月14日 11時45分 公開
[ITmedia]

 三菱ケミカルグループは5月13日、2026年3月期の連結決算を発表した。売上収益は前期比6%減の3兆7040億円だった。

 親会社の所有者に帰属する当期利益は同74%減の118億円となった。コークス(製鉄所の高炉で使われる蒸し焼きの石炭)事業、炭素材事業からの撤退や、三菱ケミカル社による希望退職者の募集に伴う特別退職金の支給などによって非経常損失が1949億円発生したことが影響した。

 一方、前期に計上した非経常損失の反動もあり、2027年3月期の連結純利益は前期比約11倍の1270億円になるとの見通しを示した。

photo01 2027年3月期通期業績予想:連結損益計算書(出所:2026年3月期 決算説明会資料)

 会見で焦点の一つとなったのが、原料であるナフサの市況と地政学リスクだ。2027年3月期のコア営業利益は3050億円を見込むが、この予想にはホルムズ海峡の封鎖などの中東情勢の影響は織り込まれていない。

 執行役員 最高財務責任者(CFO)木田稔氏は「足元の情勢が2026年9月末まで継続した場合、コア営業利益に対し、約180億円下振れするリスクがある」と説明した。

photo02 三菱ケミカルグループ 最高財務責任者CFOの木田稔氏(出所:経営方針および業績に関する説明会のキャプチャー)

 本記事では、代表取締役社長・築本学CEOと木田CFOの質疑応答の内容を基に、中東情勢の影響で同社が現在どのようなリスクと直面しているのか、その具体的な内容について紹介する。

中東情勢下での「180億円の下振れ」 その内訳とリスクの正体

木田CFO ホルムズ海峡の緊張など、足元の情勢が9月末まで継続した場合、コア営業利益に対し約180億円の下振れリスクを見込んでいる。その内訳として大きいのがMMA(アクリル樹脂の原料)などの事業で、約100億円の影響が出るリスクがある。

 当社は中東に大きな生産拠点を構えており、ホルムズ海峡内に位置するプラントからの製品出荷が滞る懸念がある。また、単なる自社の物流問題だけでなく、顧客側が当社製品以外の原料調達に苦戦し、結果として当社製品の購入量が減る「サプライチェーン由来の需要減」が180億円の下振れ要因の中でも大きな割合を占めている。

ナフサ調達の現状と、国内工場の稼働率に潜む懸念

築本CEO 岡山事業所のナフサクラッカー(エチレン製造設備)は現在、約8割の稼働率を維持している。通常の状態でも100%稼働ではないため、8割というのは標準的な水準だと考えている。

 ただし、原料のナフサを通常通りに買えているわけではない。世界中から新しい調達先を探し、いわば「プレミアム」(割増金)を支払って確保しているのが現状だ。自社での使用分や顧客向けの供給分については何とか確保できているが、今後もホルムズ海峡の影響が長引けば、一部で稼働調整を検討せざるを得ない局面も想定している。

今回の中東情勢、過去の危機との性質の違いは?

木田CFO 単純な経済原則だけで動くケースとは性質が異なり、現在は「世界の分断」という地政学リスクが顕在化している。これに対し、当社を含む企業の多くは、ERM(エンタープライズリスクマネジメント:全社的リスク管理)を以前よりも進化させている。

 当社では、万が一の事態を想定したシミュレーション、机上演習を日常的に実施してきた。それによって、今回の事態に対しても、代替原料の確保といった対応策を比較的迅速に講じることができた。影響は今後ますます複雑化するとみているが、日頃から備える体制をこれまで以上に整えていく。

三菱ケミカル、そして日本企業はこの危機をどう生かすか?

築本CEO 今回の教訓は、原料の調達ルートが中東に依存しすぎているという点にある。今後は調達先の多様化を図るとともに、石油以外の「グリーンな原料」などへの転換を加速させなければならない。

 その一環として、当社では2026年4月より社長直轄の「グリーンケミカル事業推進部」を発足した。構想だけで終わらせず、1年後には具体的な事業として立ち上げることを目指している。

 具体的には、プラスチック再利用などのケミカルリサイクルを推進する。加えて、アラブ首長国連邦アブダビ首長国で進めるグリーン水素を活用したバイオメタノール製造や、日本航空らと進めるSAF(持続可能な航空燃料)の検討、日本産木材を活用した新事業などの具体化を急ぐ方針だ。

photo03 三菱ケミカルグループ 代表取締役社長CEOの築本学氏(出所:経営方針および業績に関する説明会のキャプチャー)

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