リテール大革命

「オンライン売上60%超」「Amazonより高く売らない」 英百貨店「ジョン・ルイス」の逆襲劇 がっかりしないDX 小売業の新時代(1/4 ページ)

» 2026年05月21日 06時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。


 前回は、約28%という英国のEC化率の高さの大きな要因として、大手小売業がECで購入した商品を自宅以外の場所で受け取るクリック&コレクト(Click & Collect)を活用し、店舗とECを連携していることについて書きました。

 今回は、その象徴的な企業としてジョン・ルイス・パートナーシップ(John Lewis Partnership、以下JLP)を取り上げます。

 JLPは、百貨店「John Lewis」と食品スーパー「Waitrose」を傘下に持つ英国の小売グループです。日本国内で例えると「阪急阪神百貨店」と「阪急オアシス」や「関西スーパー」を擁するエイチ・ツー・オー リテイリング、あるいは百貨店「伊勢丹」と高級食品スーパー「クイーンズ伊勢丹」を展開する三越伊勢丹ホールディングスと近い構造にあたります。

 John LewisのWebサイトとアプリ経由の売り上げは、全体の60.9%を占めています。日本の百貨店業界から見ると驚くような水準です。

 しかも、John Lewisは「百貨店だから高く売る」ことをしていません。現在はAmazon直販を含む主要競合の価格をAIで確認し、価格を合わせる取り組みも強化しています(※)。

※参考:John Lewis Partnership「Never Knowingly Undersold returns for the modern age」

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

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20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX


百貨店なのに「オンライン購入6割超え」を実現できるワケ

 JLPが運営する高級スーパーWaitroseはかつて、ネット食品スーパーを運営する英Ocado経由で、オンラインでの販売を強化していました。

 Ocadoは2000年にオンライン食品スーパーとして創業して以降、Waitrose商品の宅配で成長。高品質な食品を自宅で受け取れる価値提案が、英国都市部の生活者に一定の支持をされていました。

 しかしOcadoはその後、自動倉庫技術を世界の小売業に売る「テクノロジー企業」へ方向転換しました。2019年、英老舗小売企業Marks & SpencerがOcado Retailの株式50%を7.5億ポンド(約1613億円)で取得。英国国内のOcado.comの品ぞろえは、WaitroseからM&S食品へ切り替わり、Waitroseとの契約は2020年8月末に終了しました。

 Waitroseを運営するJLPは、20年近く続いた卸先の喪失に加え、Ocado経由の顧客をwaitrose.comへ移行させるという課題を抱えました。

 JLPはOcado型の巨大自動倉庫モデルを活用するのではなく、自社店舗網を生かしてECと店舗をつなぎ直す道を選択しました。その中核がClick & Collectです。

小売DX ジョン・ルイス ロンドン店入り口の「WE PRICE MATCH」表示(2026年4月筆者撮影)

 JLPは、Ocadoとの離別後すぐに好調になったわけではありません。むしろ、一時は深い低迷に陥りました。

 2021年1月期には、税引前損失が5億1700万ポンド(約1112億円)に達しました。

 コロナ禍の影響もあり、百貨店John Lewisも食品スーパーWaitroseも大きな転換を迫られていました。前会長Sharon White氏の時代には、住宅事業や金融サービスなど、小売り以外の収益源を育てる方針も打ち出しました。

 しかし現在のJLPは、その路線を修正しています。軸は小売り回帰です。

 2023年3月、Nish Kankiwala氏がJLP初のCEOに就任。その後、JLPは「Brilliant Retail」を掲げ、店舗、商品、価格、サービス、物流への投資を強めました。2025年1月期の税引前・ボーナス前・例外項目前利益は、前期の4200万ポンド(約90億円)から1億2600万ポンド(約271億円)へと3倍に増えました。

 さらに2026年1月期には、JLPグループの売り上げが134億ポンド(約2兆8810億円)、税引前・ボーナス前・例外項目前利益が1億3400万ポンド(約288億円)となりました。

 一方で、非小売領域の見直しも進みました。JLPは2026年に、Build-to-Rentと呼ばれる賃貸住宅開発事業から撤退すると発表しています。

 つまり、JLPは「小売り以外で稼ぐ」方向から「小売りそのものを立て直す」方向へ戻ったのです。

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