「WBCで社名を覚えた」声続出 老舗BtoB企業がNetflix出稿に踏み切った理由

» 2026年05月21日 07時00分 公開
[中根ほづ美ITmedia]

 3月に開催した第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。本大会は、動画配信大手のNetflixが日本国内での独占生配信権を獲得したことでも話題となった。

 地上波からネット生配信へのシフトは「国民がスポーツを見る機会の確保」という論点からも関心を集め、スポーツ庁と総務省が合同で有識者会議を設置して政策の方向性を検討するなど、メディアの在り方を巡る議論へと発展している。

 そんなWBCのNetflix配信だが、攻守交代やイニング間にはスポンサー企業のCMが流れた。その中で視聴者にインパクトを与えたのが、水道管材や住宅設備機器を扱う専門商社、渡辺パイプ(東京都千代田区)の企業広告「ススメ」篇だ。

 お笑いコンビ・オードリーが、バグパイプを演奏しながら「聖者の行進」のリズムに合わせて「渡辺〜パイプ〜渡辺パイプ〜♪」と社名を繰り返し歌うこのCMは、SNS上で「頭から離れなくなる」「WBCで社名を覚えた」などと話題となった。

 トヨタ自動車、伊藤園、日本航空、三菱UFJフィナンシャル・グループなど、生活者になじみ深い企業のCMが並ぶ中、創業73年の老舗BtoB企業がNetflixに出稿した経緯とは。

渡辺パイプ企業広告「ススメ」篇30秒(出所:YouTube渡辺パイプ公式チャンネル)
photo01 企業広告「ススメ」篇のビジュアル(提供:渡辺パイプ、以下同)

73年で初のテレビCM、背景にあった採用危機

 企業広告「ススメ」篇は、渡辺パイプが初めて制作したCMで、2月末から地上波で放送。屋外広告の掲出と公式Instagramの運用も開始した。

 同社では2023年からラジオCMに出稿してきた。広報・社長室グループの野呂祐介さんは、テレビCM制作の意図について「採用環境の変化に伴い、企業認知の獲得方法を抜本的に見直したことが背景にある」と説明する。

 「ラジオCMは、生活者との継続的な接点の構築において非常に有効な手段です。一方で、短期間での到達力に限界を感じていました」

 BtoBビジネスの特性上、同社は一般生活者からの認知度が高いとは言えなかった。採用戦略において「知られていないこと」が大きな課題となっていたという。

 そこで、テレビCMや屋外広告による認知の拡大と、Instagramによる接触後の理解促進を組み合わせ、認知から興味・理解までの導線を設計した。

「テレビだけでは届かない」 Netflix出稿を決めた理由

 NetflixのWBC配信枠に出稿したきっかけは、広告代理店からの提案だった。

 採用ターゲットである学生や若手社会人の年齢層では、メディアの視聴行動が多様化している。テレビCMの出稿を決めた一方で、テレビを視聴しない層との接点をどう確保するかが課題となっていた。

 「テレビと並行して接触機会を設ける必要があると判断しました」

 Netflixの配信枠でCMを流すことで、テレビ視聴層と同一のメッセージを届けることができ、認知拡大の取りこぼしを防ぐ設計が可能になると考えたという。

専門性より“直感”を重視 CMで届けたメッセージ

 企業広告「ススメ」篇では、同社の日々の業務で見られる当たり前の風景を、オードリーが行進して歩く様子から「現場を支える仕事とは何か」というメッセージを発信している。

 制作に当たり、社内ではどのような議論があったのか。

 検討の起点は「社会に不可欠な役割を担っているにもかかわらず、その価値が十分に伝わっていない」という、BtoB企業特有の課題だった。採用を目的とする中で、専門的な事業内容を説明するよりも、まずは企業の価値を直感的に伝えることを重視し、このメッセージに集約した。

 CMの反響は多方面に現れている。社名検索数や採用ページへの流入が増加し、求職者の認知度が向上した。SNSなどでは「印象に残った」「初めて会社を知った」という声が多く、これまで接点のなかった層からの認知獲得につながった。

photo 経営企画ユニット 広報・社長室グループ グループリーダーの野呂祐介さん

 さらに社内からも「家族に会社のことを説明しやすくなった」との声が上がり、自社の価値を再認識するきっかけとなっている。

 「今後は、マス施策による認知獲得に加え、その後の理解・共感につなげるコミュニケーションの強化に注力していきます」と野呂さん。デジタルメディアでのコンテンツ発信や、現場社員のリアルな声の紹介を通じて、企業の価値をより立体的に伝えていく方針だ。

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