HR Design +

新卒より生成AIがいい──初任給バブルの裏で、大手企業が進める“超厳選採用”は何をもたらすのか河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/2 ページ)

» 2026年05月29日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

著者:河合薫

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。


 日本の雇用慣行において、長らく“最後の聖域”とされてきた「新卒一括採用」に、今すさまじい地殻変動が起きています。

 マイナビの調査によると、2027年卒の採用予定数を「増やす」とした企業は23.0%。2025年卒の32.0%、2026年卒の29.4%から2年連続で減少しました。

kk 採用予定数の経年比較(マイナビのプレスリリースより引用)

 パナソニックホールディングスが前年度比100人減、クボタが前年の約4分の1となる60人に絞り込んだほか、サントリーや関西みらい銀行など、名だたる大手企業が相次いで新卒の「厳選採用」へ舵を切っています。

 SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長は、2026年3月に登壇したイベントで、人工知能(AI)の活用を進めることで採用を大幅に抑制する方針を明言。「よっぽど優秀でないと採用するなと人事部に言っている」と断言するなど、市場は今、明確に「数から質(それも超エリート)」へとシフトしているのです。

 ちょっと前まで「我が社にいらっしゃい!」競争を繰り広げ、初任給バブルが起きていたのが、まるで嘘のようです。

 一方で、私は常々、新卒一括採用を批判してきました。新卒採用とセットだった「終身雇用」が完全に崩壊してもなお「一括」というコスト削減採用を続け、学生生活の半分を「シューカツ」に費やすことを強いるこのシステムが、バカバカしいと考えていたからです。

 しかし、今回起きている「採用枠の減少」は、そうした制度批判とは全く異なるベクトルから、日本型雇用の根幹を揺るがしています。そこで今回は「超厳選採用」と「生成AI」の挟み撃ちにあう、新卒市場の現状とこれからを考えてみます。

新卒を絞り込む2つの理由

 大手企業がこれほどまでに新卒を絞り込む背景には、大きく分けて2つの構造変化があると推察します。

 第1に「入社5秒でマジ退社」などと揶揄(やゆ)される「超早期離職」に代表される、若者のキャリア観の変化です。

 一人の新卒を採用するのに100万円以上、さらに戦力化するための教育コストに数百万円。これだけ投資した新人に、リターンを生むどころか、仕事を覚える前に「サヨナラ」を告げられては、企業としては大赤字です。

 たとえ新人時代を乗り切っても、30代で管理職昇進を嫌がったり、転勤を拒否したり、あげく転職されては、企業が莫大なコストと時間をかけてまで「育成型の採用」を維持する理由は、もはやどこにも見当たりません。

 第2に、新卒の業務の多くがテクノロジーで代替可能になったことです。アカリク(東京都渋谷区)が実施した調査では、企業が新卒採用の戦略や方針を見直した理由として「生成AIを活用できる人材を重点的に採用したいから」が66.7%となりました。今後の新卒選考では「インターンシップで生成AI活用課題を実施する」企業が54.5%に達しています。

kk 新卒採用の戦略や方針を見直した理由(アカリクのプレスリリースより引用)
kk 今後の新卒採用において、生成AI時代に対応するためどのような取り組みを検討しているか(アカリクのプレスリリースより引用)

 つまり企業は今、単なる「労働力としての頭数」ではなく、はじめから「AIを使いこなせるという武器を持った即戦力」だけを選別しようとしているのです。

 見方を変えれば、これまでの「指示待ちの新卒」がやっていた定型業務は、すでにAIで事足りるという厳しい現実です。AIの利用料を人件費と捉えれば、新卒社員の給料よりもはるかに低く、SNSテロなどの不始末を起こすリスクもない。最大の利点は、24時間365日働かせてもなんら問題ない点でしょう。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR