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ラスボスは誰だ?――“DXの社内政治”を制覇する、NTTドコモ流「攻略ストーリー」の描き方

» 2026年06月24日 07時00分 公開
[濱川太一ITmedia]

 「DXとは社内政治。いろいろな人たちを納得させるゲームだ」――こう言い切るのは、NTTドコモで社内DXを率いる頭川裕紀氏(R&Dイノベーション本部)だ。

 DXを推進する際は「企画」「予算」「経営層と現場の理解」などが全てそろっていることが理想だ。しかし、実際は何かが欠けていることが往々にしてある。不完全な状態の中、リーダーは手探りでDXの指揮を執らなければならない。

 頭川氏は、DX推進をゲームに見立て、その“攻略ストーリー”を描くことが、成功の鍵を握ると話す。その真意はどこにあるのか。

photo NTTドコモの頭川裕紀氏(R&Dイノベーション本部 クロステック開発部 都市デザイン技術開発担当 担当部長)(写真提供:リーダーズ)

本記事は、DX支援を手掛けるメンバーズの主催イベント「DXリーダーズ・カンファレンス2026」(6月12日開催)に登壇した、頭川裕紀氏による講演「大規模組織の社内DXにおける成果創出までの道のり〜NTTドコモR&D内製組織の泥臭い実践〜」を取材したもの。


ラスボスは誰だ? NTTドコモ流「攻略ストーリー」の描き方

 DXというと、AIやクラウド、データ活用といった技術の話になりがちだ。しかし頭川氏は、DX推進において本当に難しいのは「人をいかに動かすか」だと語る。

 大企業のDXプロジェクトには、経営層や管理職、実務担当者、セキュリティ部門など多くの関係者が存在する。それぞれ立場も利害も異なり、求めるものも違う。

 経営層は費用対効果を重視し、現場は使いやすさを求める。管理職は組織運営への影響を気にし、セキュリティ部門はリスクを懸念する――。DX担当者のミッションは、システムを作るだけでは達成できない。こうした関係者を納得させながら、施策を前へ進める必要がある。

photo DXに関する多くのステークホルダー(出所:頭川氏の投影資料)

 頭川氏自身、その難しさを新規事業の現場で痛感してきたという。

 約10年前に新規事業部門へ異動した際、頭川氏は飲食業界向けの予約台帳管理システムとモバイルオーダーサービスの立ち上げを担当した。当時、中国で広がり始めていた「二次元コード注文」の仕組みに可能性を見いだし、飲食店向けサービスの構築を進めたが、サービスが始まる直前にコロナ禍に入ってしまった。導入を予定していた飲食店は営業継続が難しくなり、頭川氏らの新規事業は思うような成果を上げられなかった。

 この経験を通じて同氏は、事業もシステムも「作れば終わり」ではないことを学んだと話す。経営層を説得し、営業を巻き込み、現場で継続的に使われて初めて価値になる。そうした教訓が、現在のDX推進の考え方の土台にあるという。

「最初は誰も、あなたの企画に興味がない」

 頭川氏は、DX担当者がまず捨てるべき考えとして「条件が整ってから始める」という発想を挙げる。

 理想を言えば、予算があり、経営層の支援があり、現場も変革を望み、課題も明確になっている状態が望ましい。しかし実際には、予算不足や、現場が協力的でないこと、経営層の理解が十分でないことも珍しくない。DXの多くは何かが欠けた状態から始まる。

 「全部そろうのを待っていたら、一生始まらない」(頭川氏)

 また、多くのDX担当者が見落としがちな現実として「最初は誰も、あなたの企画に興味がない」と頭川氏は指摘する。

 DX担当者にとっては重要な案件でも、他部署の人にとっては数ある仕事の一つに過ぎない。自分が伝えたいことではなく、相手にとっての価値を示す必要がある。

 経営層には経営課題の解決につながることを、現場には業務が楽になることを示す。相手ごとに異なる「関心のボタン」を押すことが、協力者を増やす第一歩になるという。

脱・押し付け型のDX 現場を「顧客」と考える

 では、現場を巻き込むにはどうすればよいのか。

 頭川氏が重視するのは、DXを「社内向けシステム開発」ではなく「社内向けサービスづくり」として捉えることだ。「システム導入者として振る舞うのではなく『社内起業家』として振る舞うとよい」(頭川氏)

 現場の社員は、必ずしも業務改革を望んでいるわけではない。たとえ非効率な作業であっても、今のやり方で仕事が回っているなら変える必要性を感じない人も多い。

 DX担当者が「正しいから導入すべきだ」と頭ごなしに説明しても、現場は動かない。利用者にとって本当に価値があるものを準備し、形作っていく必要がある。

 DXの企画を現場に持って行くときも、完璧に作り込む必要はないという。最初は「業務上でこんな困りごとはないですか」といった、粗い仮説レベルの企画を現場に示し、対話を通じて課題認識のズレを修正しながら磨いていく。その後、簡単なプロトタイプを作って現場に試してもらい、フィードバックを受けて改善する――こうしたサイクルを繰り返すことで、現場理解が深まり、利用者との信頼関係が生まれる。

 頭川氏は「DXの目的は導入ではなく、使われ続けること」と語る。だからこそ、大規模なシステムを最初から作るのではなく、スモールスタートで改善を繰り返すアジャイル型の進め方が重要なのだという。

NTTドコモで実践している「サンドイッチ戦略」とは

 DX推進において頭川氏が実践しているのが「トップダウンとボトムアップのサンドイッチ戦略」だ。

 トップダウンだけだと、システム導入はできても、現場で使わない可能性がある。一方でボトムアップだけでは、現場の支持を得られても予算執行や投資判断につながりにくい。

 そこで、まずは現場で小さな成果を作り、業務改善につながった事例や利用者の声を集めてそれを経営層に伝える。現場の支持という実績があれば、経営層も判断しやすくなる。

 そして経営層の支援を得られれば、現場にもさらに展開しやすくなる。現場とトップの双方を味方につけることで、DXは前へ進みやすくなるという。

photo 頭川氏が説くサンドイッチ戦略(出所:頭川氏の投影資料)

織田信長に学ぶ、DX攻略の勝ち筋

 こうしたDX推進プロセスをゲームに見立てて「その攻略ストーリーを描くこと」が重要だと頭川氏は強調する。ゴールを描き、そこから逆算して必要な通過点を考える。そして、その実現に必要なキーパーソンや意思決定者を見極める。

 ゲームで“ラスボス”を倒すために攻略ルートを考えるように、DXにも「攻略ストーリー」が必要だという。

 「織田信長は、桶狭間の戦いで今川義元という大将首だけを狙った。敵の兵士を全員倒す必要はない。それと同じで、社内DX推進時に全てのステークホルダーを全員納得させることは難しい。大将首だけ狙い、サンドイッチ戦略で『現場の実務担当者』と『トップ』を押さえれば、後はなびく」(頭川氏)

 攻略ストーリーは、DX担当者1人では描けない。企画立案、現場ヒアリング、開発、データ分析、調整業務など、必要な役割は多岐にわたる。フェーズごとに必要な人材を集め、チームを組成することが重要だという。

 頭川氏は「DXは、不完全から始まり、順次補いながら強くしていくチーム戦のゲーム」だと説明して「『ラスボスは誰だろう?』『どんな武器が効くだろう?』と攻略ストーリーを描けば、後は実行あるのみだとエールを送った。

 いくら優れた技術があっても、それを活用できなければ意味を成さない。DXの肝は「最新技術を導入すること」ではなく「人と組織を動かし続ける営み」といえるのかもしれない。

photo DXをゲームと捉える考え方(出所:頭川氏の投影資料)

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