デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
前回は、オンライン売り上げ比率60%超の百貨店ジョン・ルイスが、来店頻度の高い食品スーパーを受取拠点として活用している事例を書きました。今回は、客の入店が不可能な代わりにピッキング効率に特化した店舗であるダークストアと、食品スーパーマーケットを組み合わせた事例を取り上げます。
英国食品スーパー2位のSainsbury's(セインズベリー)は2016年、カタログ小売Argos(アルゴス)を擁する英Home Retail Groupを約14億ポンド(約3010億円)で買収しました。
当時の市場の反応は懐疑的でした。食品スーパーが、Amazonに侵食されつつある非食品量販を買う理由が見えなかったからです。
※本稿の円換算は1ポンド=215円で計算
セインズベリーは不採算店舗の閉鎖と並行して、アルゴスの機能をスーパー内に移植しました。2026年2月時点で、アルゴスの顧客接点は単独店203店、セインズベリー店内466店、受け取り拠点466カ所の計1133カ所に達します。
なお、英国世帯の半数が年1回以上アルゴスで買い物をしています。
2026年4月、筆者はロンドンとマンチェスターで88店舗超を視察し、その中でこの統合店舗も実際に体験しました。
本稿では、経営数値と現地観察の両面から、食品スーパー+非食品ダークストアのフォーマットを整理します。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX』
単独店でも、セインズベリー内の店舗でも、アルゴスの店内にはタブレットと受取カウンターしかなく、商品は一切陳列されていません。
かつては、顧客がカタログで商品を選び、カウンターで注文番号を伝えて、バックヤードから店員がピックアップした商品を受け取って支払う仕組みでした。現在はタブレットで注文、決済し、カウンターに届いた商品を受け取るだけで完了します。
売り場の実態は「注文接点+倉庫」です。この構造なら、家電・玩具・家具・日用品まで2万品目超を小さな売り場で扱えます。
現在は紙のカタログからWebとアプリに、庫内外作業もIT活用で進化しているので、さながら「2分で受け取れるAmazon」のようです。Amazonより品ぞろえは限定的ですが、スーパーの棚に並べるには購買頻度は低いが、年に数度需要がある用途機能を満たすことができます。
アルゴスはECの店舗受け取り(クリック&コレクト、BOPIS)と本質的に同じ構造です。売り場をスーパー内のカウンターに置き換えても、ビジネスモデルが壊れることはありません。買収の成否を分けた最大の要因は、この「移植しても壊れない構造」を見抜いた点にあります。
2024年2月発表の中期戦略「Next Level Sainsbury's」で、セインズベリーはアルゴスの位置付けを数字で示しました。売り上げの70%超がオンライン起点、注文の70%が店舗受け取り、クリック&コレクト注文の約70%は即時受け取りが可能。サイト訪問者数は英国の小売ECでAmazonとeBayに続く、3番目に多い水準です。
課題も隠しておらず、顧客のサイト訪問は平均で年3回にとどまります。この課題解消のため、マーケットプレイス化とサプライヤー直送による品ぞろえ拡大、アプリとCRM(顧客関係管理)への投資を行っています。
受け取り網も売り場に限りません。衣料品PBや宅配便の受け取りを束ねたコレクションポイントを広げ、都市部には小型フルフィルメントセンターを配置して当日受け取りを支えます。現状→課題→施策が数値で一直線につながっており、戦略のなかに「シナジーの最大化」のような抽象論は出てきません。
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