「バーチャル背景禁止」に困惑…… リモートワークに2つの“謎ルール”が生まれるワケ「キレイごとナシ」のマネジメント論(2/3 ページ)

» 2026年07月01日 08時50分 公開
[横山信弘ITmedia]

「テレワーク中は残業禁止」なのに業務量は同じ

 別の会社のBさんも、入社して間もなく、ある厳しいルールに直面した。

 「テレワーク中の残業は禁止。休日勤務も、原則として認めません」

 理由を聞くと、上司はもっともらしく答えた。

 「在宅だと、仕事とプライベートの境目があいまいになるだろう。健康のためにも、ちゃんと定時で切り上げなさい」

 なるほど、と思いながらBさんはテレワークで仕事を始めた。しかし与えられた業務量は、出社していたときと全く同じだった。定時で終わるはずがない。それでも「禁止」だけは厳格なので、Bさんは時計を気にしながら、こっそり作業を続けることになった。

 ある日、思い切って正直に申請してみた。

 「すみません、今日30分だけ残業になりそうです」

 すると上司から、ものすごい速さで返信が届いた。

 「テレワークなんだから、残業はダメ!」

 Bさんはつい聞いてみたくなった。「では、仕事量を減らしていただけますか」。すると、しばらく既読がつかないまま、時間だけが過ぎていった。

 結局、その日も「禁止」という言葉だけが残り、仕事は1つも減らないままだった。

これらの謎ルールは、労務上どうなのか

 ここからは、労務の観点から本来どうあるべきかを見ていこう。

  1. バーチャル背景禁止は、法的根拠が弱い
  2. 残業禁止だけでは、会社の義務を免れない
  3. 在宅勤務でも労働時間管理の義務は変わらない

 それでは、一つ一つ解説していこう。

バーチャル背景禁止は、法的根拠が弱い

 まず、バーチャル背景の使用を一律に禁止する業務命令には、明確な法的根拠は乏しい。

 会社が業務上の指示を出せるのは、業務遂行に必要な範囲に限られる。例えば情報セキュリティー上の理由で「会社が許可した背景以外は使用しない」というルールを設けることはあり得る。しかし、それと「個人のプライバシー保護のためのバーチャル背景」を一律に禁止することは、目的と手段のバランスを欠いている可能性が高い。

 厚生労働省のテレワークガイドラインでも、在宅勤務の環境整備については労働者本人の事情に応じた配慮が求められている。家族の介護や生活空間の事情がある社員が、バーチャル背景を使用するのは、どう考えても妥当だろう。禁じる合理的な理由は見当たらない。

 「素の部屋を見せてほしい」という管理側の意図が、もし「在宅で本当に仕事をしているか監視したい」というものであれば、それは別の方法でやるべきだ。例えば業務報告や成果物の確認ですればいい。

残業禁止だけでは、会社の義務を免れない

 「テレワーク中は残業禁止」というルール自体は、就業規則に明記し周知されていれば、原則として問題ない。

 しかし、ここに重大な注意点がある。

 残業禁止や事前許可制を定めるだけでは、会社の義務は果たされない。残業をさせないよう、業務量そのものを調整する義務が会社側にあるのだ。

 明らかに就業時間内に終わらない量の業務を与えていたりしたら、話は別だ。

 「形式的には禁止しているが実態としては残業させている」と判断される可能性がある。これは「黙示の残業命令」と呼ばれる。会社の指揮命令下にある労働時間とみなされ、残業代の支払い義務が発生する。

 Bさんのケースのように「残業禁止」と言いながら業務量を変えないのは、典型的なパターンだ。残業代を支払わずに労働力だけを得る行為になりかねない。

 会社が本当に残業をなくしたいのであれば、ルールを定めるだけでなく、業務量や納期の調整をすべきである。スキル不足というのなら、スキル開発の支援をすべきだ。それをせずに「禁止」だけを叫ぶのは、責任を従業員に押し付けていると受け止められるだろう。

在宅勤務でも労働時間管理の義務は変わらない

 そもそも、テレワークであっても労働基準法の適用は変わらない。会社には、従業員の労働時間を適正に把握する義務がある。

 「在宅だから管理しにくい」という会社側の事情は理解できる。しかし、管理が難しいことと、義務がなくなることは別の話だ。

 つまり多くの企業では、テレワークであっても、自己申告やシステムの記録による勤怠の管理・運用が必要だ。もし「禁止すれば管理しなくていい」という発想があるのなら、これは大きな間違いと言えるだろう。

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