購買AIエージェントの開発を決めたのは、2025年秋。同年12月に本格着手し、2026年3月末に「モノタロウAI」をリリースした。ITインフラにはクラウド「Amazon Web Services」(AWS)を採用している。約4カ月という短期間を可能にしたのは、3つの工夫だった。
1つ目は「役割ベースの分離設計」だ。顧客の要望を解釈する部分、対話の文脈を保持する部分など、必要な機能を見極めて「作るもの」「作らないもの」を取捨選択した。この設計は、AWSの支援サービス「AWS Professional Services」の担当者と綿密に詰めた。
2つ目は「ハイブリッド型アプローチ」で、作り込んできた既存の検索エンジンを生かし、必要な部分だけにAIを使った。
3つ目は「自社の検索機能やデータ資産とLLMの連携」だ。普川氏はこの方針を「検索エンジンが社内にあり、顧客情報も持っているので、そこを十分に活用して良いサービスを作る」と表現する。LLM(大規模言語モデル)は、AWSの生成AI基盤「Amazon Bedrock」を用いた。
性能面は、作りながら決めていった。初期には、回答が出るまで約30秒かかっていたが、処理の並列化などでスペック上は8秒に短縮。AIの生成結果を逐次表示する通信方式に見直したことで、体感では最初の出力が約1秒で始まるという。
普川氏は、モノタロウAIのデモンストレーションを実施した。モノタロウの画面右側にAI用ウィンドウが現れ、入力に応じて商品を提案する。「前に購入した結束バンドを再購入したい」と入れると、過去に買った候補が数秒で表示される。「昔買った黒い結束バンド」と条件を足せば、該当品が最上位に示される。
「二度拭きのいらない壁紙洗剤」という用途で尋ねると、商品の候補とともに「二度拭き不要」「壁紙専用」といった選定理由を返した。
従来は、検索キーワードと商品名が一致しないと適切な答えを返せないことがあったが、モノタロウAIでは「洗車洗剤」と入力した顧客に、品名である「カーシャンプー」を提示することもできる。過去の購買履歴に限定しつつ自社の検索エンジンを使う、従来はできなかった探し方だ。
モノタロウAIは現在、一部の顧客向けに限定的に公開している。それでもリリース後に見えてきた手応えがあるという。
ユーザーがモノタロウAIに投げかける質問は、商品名や型番を指定する「指名検索」や、用途から探す「用途検索」が多くを占める。過去に買った商品を再び求める「リピート購買」は、質問の回数は少ないものの、指名・用途検索に比べて購入率が約2倍高かった。同社はリピート購買の認知を広げつつ、指名・用途検索の改善を構想している。
成果が出た一方で、LLMならではの運用の壁もある。普川氏は「LLMは毎回同じ答えを返さない。社内や顧客から『おかしくないか』と指摘されても再現できないことがある。挙動を追えるオブザーバビリティ(可観測性)のレベルを大幅に上げておかないと厳しい」と語る。
今後は、複数ターンの対話でも文脈を保つ機能や、カート投入から購入までの支援を強化する。並行して、運用基盤の強化と、全顧客に公開した際のコスト対応を進める。
生成AIの登場で変わる自社ビジネスに対して、自社の強みを生かしながら適材適所でAIを組み込むMonotaROの実践知は、EC事業者に限らず多くの企業のヒントになりそうだ。
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