「モノタロウ」は、約2800万点の商品を取り扱う法人向け通販サービスだ。「手袋」と検索すると、ヒット件数は1万数千件に上る。医療系の顧客にはニトリルゴム手袋を、製造業の顧客には刃物でも切れにくい手袋を上位に表示するといった工夫で「現場を支えるネットストア」を実現している。
購買データを活用した顧客体験を強みとするモノタロウはいま、課題に直面している。「AI検索」の登場だ。AIが顧客の要望をくみ、商品の比較・推薦を代替するようになれば、EC事業者は「誰が何を探しているのか」というデータを得にくくなる。最終的にECサイトへ送客される構造は変わらないとしても、EC事業者や小売業者にとって無視できない変化だ。
買い物の「入り口」が移り変わる中、モノタロウを運営するMonotaRO(大阪市)は、対抗策として「購買AIエージェント」を4カ月で開発し、ECサイトに組み込んだ。AIエージェントを内製してまで守ったものとは一体何なのか。同社の普川泰如氏(常務執行役 CTO)が語った。
本記事は、アマゾン ウェブ サービス ジャパンが主催したイベント「AWS Summit Japan 2026」(6月25〜26日開催)の講演セッションから「モノタロウのAI戦略とその実践――購買AIエージェントが拓くエージェンティック・コマース」を取材したもの。
モノタロウは「資材調達の変革」を目指してスタートしたECサイトだ。システム開発からデータ分析、カスタマーサポートまでを自社で担う「フルスタックEC」を掲げている。
重視するのが、自社で蓄積した購買・行動データの活用だ。建設業の顧客が「ねこ」と検索したら、検索結果に「手押し一輪車」を表示する。手押しタイプの一輪車を、業界では「ネコ」(猫車)と呼ぶからだ。ユーザーの業種と検索時のキーワードから必要な商品を確率的に予測し、商品マスターにない業界用語に対応するなど検索結果を最適化してきた。
2024年には「ベクトル検索」を導入。検索キーワードや商品名などの「単語の意味」を数値に置き換え、数値の近さを検索に生かす。「工場の床に白い線を引く」といった用途を入力した検索でも商品を提示できるようになり、検索結果が0件になるケースを約70%削減したという。
検索の精度を磨いてきた同社が、次の一手として取り組んだのが購買AIエージェントの開発だ。背景には、生成AIの台頭に対する危機感がある。
従来、顧客は検索エンジン経由でモノタロウに入り、商品を探して購入していた。「欲しい商品を見つけやすい」という強みが同社の競争優位性だった。しかし、商品探しに生成AIサービスを使う人が増えると、商品の比較や絞り込みはAI側で完了し、表示されたリンク先に遷移して購入する構図になりかねない。
MonotaROの普川氏は「データを活用してサービスを良くしたいと考えるわれわれにとって、データが取れなくなるのは大きなリスクだ」と語る。
そこで同社は、検索体験をさらに磨き「BtoB顧客が商品を探すなら、自社エージェントが一番うまく探せる」という状態を目指した。
購買AIエージェントの開発で最も重視したのが、2つの要件を同時に解決することだった。BtoBでは用途と商品のフィットが何より重要になる。「現場の要件と商品が少しでもずれると使い物にならない」と普川氏は話す。
その一方で「工場の床に白い線を引きたい」というように、やりたいことは明確でも何を買えばよいか分からない顧客もいる。「商品が明確な場合」「用途だけが明確な場合」の双方に対応するため、同社は購買AIエージェントが提供する価値を3つに整理した。
3つ目は、BtoB特有の価値だ。工場では、作業者が自らECサイトで探さず、事務担当者に「これが欲しい」と頼んで買ってもらうことが多いという。型番が分かればよいが、ない場合は同等の代替品を選ぶことになる。そのような場合に「どのような根拠でこの商品を推奨したのかを説明できることが大切」と普川氏は話す。こうした言語化がBtoBでの活用を後押しするという。
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