「暑いと効率が落ちる」はやっぱり本当だった データが示す、エアコンと経済成長の関係性

» 2026年07月03日 07時00分 公開
[ロイター]

 欧州が“溶け”つつある。5月下旬から記録的な熱波が大陸を襲っており、パリでは38℃、ロンドンでは33℃、ベルリンでも同程度の気温を記録した。熱波が収束するまでに、数千人の死者が出るという予測もある。

 「噴水に集まる人々」「休校となった学校」などの映像が報道の中心となっている一方で、経済的損失がすでに拡大している。企業や政策立案者の多くは、その影響を把握し始めたところだ。

 ドイツの保険大手Allianzの試算では、フランス、イタリア、ドイツ、スペインの4カ国だけでも、2030年までに熱波に起因するGDPの累計損失額が6380億ドルに達する可能性があるという。その主な要因は、労働生産性の低下と冷房コストの急増である。

photo 暑いと生産性も経済成長率も落ち込む(写真提供:ロイター)

「暑いと効率が落ちる」はやっぱり本当 エアコンと経済成長の関係性

 「暑さは、重要な試験を受ける学生から労働者まで、あらゆる人に影響を及ぼす」――米ペンシルベニア大学ウォートン校の労働経済学者で、気候変動が経済に与える影響について記した『Slow Burn: The Hidden Costs of a Warming World』の著者であるR・ジソン・パーク氏は語る。

 「労働災害もそうだ。あらゆる場面に影響する」と同氏は述べる。

 暑さが経済に及ぼす影響は至る所で確認されている。

 米国ニューヨーク市の公立高校では、華氏90℃(摂氏約32℃)の日に卒業試験を受けた生徒は、華氏65℃(摂氏約18℃)の日に受験した場合と比べ、合格率がおよそ10%低くなることが過去のデータから分かっている。

 また、屋内・屋外を問わず、華氏80℃台後半(摂氏約31℃以上)の日には、労働者が重大なけがや事故に遭う確率が5〜45%高くなる。

 世界でも特に冷房設備が普及している米国でさえ、平年より暑い年には、学生の学習成果や人的資本の蓄積が平均を下回ることが確認されている。その影響は大学進学適性試験(PSAT)の成績にも表れている。研究者は、これを「極めて不平等な影響」と指摘している。

平均気温が1℃上昇→GDP成長率はどれだけ下がる?

 暑さと経済成長の関係については、長年にわたり直感的に理解されてきたものの、十分なデータによる裏付けはなかった。パーク氏によれば、その考え方は古代ギリシャの哲学者アリストテレスにまでさかのぼれる。近年では、シンガポール建国の父であるリー・クアンユー元首相が、熱帯の都市国家である同国の経済発展を支えた最大の要因として「エアコン」を挙げたことでも知られる。

 「暑い地域ほど平均的に貧しいことは以前から分かっていた。それだけではなく、平年より暑い年には、多くの地域でGDP成長率や生産高が平均を下回ることも明らかになっている」とパーク氏は述べる。

 代表的な研究では、世界全体で年間平均気温が平年より華氏1℃高くなると、1人当たりのGDP成長率は0.7〜1.3%低下するとされている。

photo 年間平均気温が平年より華氏1℃高くなると、1人当たりのGDP成長率が低下する(写真提供:ゲッティイメージズ)

 もちろん、その影響は一様ではない。寒冷な地域では、一定の範囲内であれば気温上昇がわずかな恩恵をもたらす可能性もある。

 しかし、世界の大半の地域、特に十分な備えがない国や企業にとっては、GDPへの影響は明らかにマイナスだ。パーク氏によれば、経済への打撃が最も大きいのは、記録的な猛暑ではなく、徐々に進行する暑さである。

 「今回の欧州のように華氏100℃(摂氏約38℃)を超える記録的な熱波が起きると、人々の関心は一気に高まる」と同氏は話す。

 「しかし実際のデータは、被害の大部分は、頻繁に発生する『それほど極端ではない事象』の間に、目に見えない形で生じていることを示している。そうした影響は、ほとんど注目されていない」(パーク氏)

 華氏70℃台後半〜80℃台前半(摂氏約25〜28℃)の日々こそが、経済への累積的な負担を生み出している。

 「気温が華氏80℃台(摂氏約27〜31℃)程度であっても、労働生産性や学生の学力、職場での事故発生率には、わずかではあるが測定可能な影響がある」と同氏は説明する。

 「こうした日は圧倒的に多いため、その小さな影響が積み重なっていくのである」(パーク氏)

何℃までなら快適に働ける?

 パーク氏によれば、問題の本質は気候そのものというより、むしろインフラにあるという。

 同氏は、米シアトルで気温が華氏90℃(摂氏約32℃)に達した日に、同じ気温の米ヒューストンより多くの人が死亡することを例に挙げる。その理由は、シアトルの暑さがより厳しいからではない。ヒューストンは、高温を前提として都市のインフラや制度を整備してきたためである。

 「ヒューストンのような都市は、暑さへの適応がはるかに進んでいる」とパーク氏は述べる。

 住宅用エアコン、職場の空調設備、熱波警報システム、医療体制、交通インフラなど、どの対策が特に効果的なのかについては、現在も研究が続いている。

 「ヒューストンのような地域が暑さにうまく適応できている背景には、さまざまな要因が組み合わさっている。一方、西欧の多くの地域は、これまで極端な暑さをあまり経験してこなかったため、十分な適応が進んでいない」と同氏は語る。

 ドイツ、フランス、オランダ、英国では、これまで華氏90℃(摂氏約32℃)を超える日は年間で1桁台にとどまるのが一般的だった。一方、ヒューストンでは、そのような日は年間少なくとも100日に達する。

 「しかし、その状況は変わり始めている」とパーク氏は指摘する。

 米エネルギー情報局(EIA)のデータによれば、米国では家庭の80〜90%にエアコンが設置されている。

 これに対し、ドイツのエアコン普及率は約19%だ。とはいえ、急速な空調設備の導入が進んだ結果、2年で約2倍に増えている。国際エネルギー機関(IEA)のデータでは、英国ではエアコンを備えた住宅は全体の5〜7%程度にとどまっている。

 欧州中央銀行(ECB)の新たなワーキングペーパーでは、極端に暑い日が1日発生すると、その後12カ月間のドイツのGDP成長率は0.2〜0.3ポイント押し下げられることが示された。一方、暑さへの適応が比較的進んでいるスペインやイタリアでは、その影響は小さい。

 2006年に米ローレンス・バークレー国立研究所が実施した分析では、生産性は摂氏22℃前後で最も高くなり、摂氏25℃を超えると1℃上昇するごとに約2%低下すると報告されている。

 「ドイツやスウェーデン、英国のような国で、気温が摂氏30℃台に達した日に、十分な空調設備がないまま普段通り仕事を続けなければならない状況を想像してみてほしい」(パーク氏)

photo エアコンの効果は大きいようだ(写真提供:ゲッティイメージズ)

「暑さが原因による損失に気付いていない」

 企業は、従業員が暑さにさらされるリスクを重要な経営課題として議論すべきだとパーク氏は指摘する。

 「自社の従業員のうち、日常的に暑さにさらされる人がどの程度いるのかを、即座に答えられる企業がどれほどあるだろうか」と同氏は問いかける。

 「そうした評価を実施しているだろうか。取り組んでいる企業もあるだろうが、多くはまだ十分ではないかもしれない。その割合によっては、業績への影響も大きく変わる」

 暑さは労働者の生産性を直接低下させるだけでなく、物流にも影響を及ぼす。

 「物流業務の効率も暑さによって低下することを示す確かな証拠がある」とパーク氏は述べ、航空機の遅延を例に挙げる。

 研究では、暑さによって主要空港での遅延や欠航が増加することが示されている。その主な要因は人である。手荷物取扱作業員や地上業務員、給油作業員などは、高温下では体調不良による欠勤や労働災害が増え、炎天下の駐機場では作業速度も低下しやすい。

 さらに、気温が一定の水準を超えると、滑走路そのものが使用できなくなる場合もある。

 「空港によって暑さへの適応度は異なる」とパーク氏は述べ「つまり、改善できる余地があるということだ」と指摘する。

 こうした影響は、輸送や物流に依存するグローバル経済において、とりわけ顕著に現れる。

 「実際には暑さが原因であるにもかかわらず、そのことに気付いていない損失が相当程度存在する可能性がある」とパーク氏は話す。

 「こうした混乱が少しずつ積み重なっていく。水滴が一滴ずつ落ちるように、損失は徐々に膨らんでいくのである」(パーク氏)

 また、空調の整ったオフィスで働くホワイトカラーと、厨房(ちゅうぼう)や倉庫、建設現場などで働く人々との間には、大きな格差がある。

 「影響には大きなばらつきがあり、不公平も存在する」と同氏は述べる。

 「ホワイトカラーへの影響は異なるものの、欧州で見られたように、インフラの状況次第ではホワイトカラーも決して暑さの影響を免れるわけではない」(パーク氏)

広がるエアコン需要 課題は電力インフラにあり

 現在の欧州では、エアコンの使用を控えるよう呼びかける政府もある。電力網が新たな冷房需要を十分に吸収できる体制になく、その結果、気候変動対策と暑さへの適応との間で緊張が高まっている。

 「これは、気候変動が現実的で実務的な経済問題ではなく、イデオロギーや政治の問題として語られることの危うさを示す典型例である」とパーク氏は指摘する。

 「さまざまなイデオロギーや政治的立場が入り交じってしまうが、本来は、より現実的で実践的な中間的立場があり得るはずだ」(パーク氏)

 「冷静に、データに基づいて意思決定に役立つ議論をすべきである。生活を守り、人命を守り、経済の生産性を維持したいのであれば、極端な高温がこうしたあらゆる人間活動に影響を及ぼす可能性を十分に認識すべきだと、データが示している」(パーク氏)

 同氏が提言するのは「まずデータが何を示しているのかを確認し、その後でイデオロギーを重ね合わせること」である。

 「変化は大きな災害が起きてからでも生み出せるが、事前に先手を打って実現することもできる」と同氏は語る。

 「気候変動を『遠い将来の環境問題』『政治・思想上の問題』として捉えるだけでなく、すでに私たちの日常生活に影響を及ぼしている『身近で実践的な経済問題』として認識するよう視点を転換できれば、後者を実現できるはずだ」(パーク氏)

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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