全都道府県で最低賃金は1000円を超えています。2026年は2025年より55円上がり、全国平均1176円になる見込みです。いま各地域で改定額が審議されていますが、1000円が高時給の目安のような印象だった時代は過去のものとなりました。
人生で初めてアルバイトをする高校生でも、1000円以上の時給を得られる社会が到来したことには隔世の感を覚えますが、最低賃金は今後も1500円を目指して上がり続ける方向で進んでいます。
単純に時給が上がり、収入が増える恩恵だけを受けられるのであれば良いですが、最低賃金が急激に上昇し続ける先に社会を待ち受けるのは、楽観的な未来か悲観的な未来か――どちらもあり得ます。求人動向や働きやすさ、年収の壁などへの影響を踏まえながら、最低賃金の上昇が働き手と職場にどのような影響を及ぼす可能性があるのか考えます。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
最低賃金が急激に上昇し続けたとして、それに見合う形で職場の生産能力が上がっていくならば、見えてくるのは社会の楽観的な未来像です。最低賃金の上昇に応じて職場全体の賃金相場が底上げされると、働き手は気持ちよく仕事に取り組むことができ、増えた収入に見合うパフォーマンスを発揮しようと努めることが期待されます。
その場合、会社は人件費の増加を上回る利益を生み出そうとします。業務体制の見直しや商品・サービスの付加価値向上、新規事業の立ち上げなどが奏功し、会社全体の生産性が向上していけば、求人を増やすことになります。求人が増えれば働き手にとって就職先の選択肢が広がり、より働きやすい職場を選べるようになり、好循環へとつながっていきます。
一方、最低賃金の上昇で会社の経営体力が持たなくなった場合、人員削減を余儀なくされ、生産能力の維持が難しくなる可能性があります。労働市場では求人数が減少し、仕事に就けなくなる人の数が増えていきます。失業率が上昇すると世帯収入が減ってお金が消費に回らなくなります。結果、生産と消費の双方が弱体化して経済が縮小していってしまいます。こうなると、見えてくるのは社会の悲観的な未来像です。
労働政策研究・研修機構が公開しているデータから最低賃金の上昇ペースを算出すると、対前年比で2021年が3.1%増、2022年が3.3%増、2023年が4.5%増、2024年が5.1%増、2025年が6.3%増となっています。ここ5年は、ずっとハイペースな右肩上がりを示してきました。
また、総務省の労働力調査によると、完全失業率は2021年から2025年にかけてジワジワと低下してきています。いまのところ、仕事に就くことができていない人の数は少なく抑えられ、安定を保つことができているようです。
それに対し、厚生労働省の一般職業紹介状況から求職者1人につき何件の求人があるかを示す有効求人倍率を確認すると、2021年から2023年にかけては上昇していたものの、2024年、2025年と連続して減少に転じています。さらに、2026年も2025年を下回るペースで推移しており、現在も求職者1人当たりの求人件数は減少傾向が続いています。
有効求人倍率は、景気の動向や求職者の就業意欲など、さまざまな要素から影響を受けます。最低賃金もその一つです。ギリギリの金額でなんとか雇用できていた会社だと、最低賃金が引き上げられるほど求人が出しづらくなってしまいます。
冒頭で触れたように、2026年の最低賃金は引き上げ目安が全国平均55円となりました。前年比4.9%の上昇ということになります。2025年の上昇率は同6.3%だったのでペースは落ちました。依然高い水準で引き上げつつも、雇用への影響に配慮した水準とも受け取れます。上昇ペースにはややブレーキがかかり始めたと見ることもできます。
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