設立からわずか3年で、中国のDeepSeekは無名のスタートアップから評価額600億米ドル規模のAI大手へと成長した。「ChatGPT」の競合サービスである同社のAIアプリは、2025年1月に一般公開して以降、約1億7300万回ダウンロードされている。
創業者の梁文鋒(リャン・ウェンフォン)氏は、KPIを一切設定せず、チームに深夜勤務を強いることもなく、この成果を達成したと語っている。
「われわれは基本的に残業はしない」――梁氏は、中国のTencent Technologyが入手・書き起こした約4時間に及ぶ社内ディスカッションの中で、こう明かした。
世界有数の資産を持つAI企業の創業者・梁氏は、このゆとりある経営方針に2つの理由があると説明する。
「第一に、研究にはリラックスできる環境が必要である。過度なプレッシャーをかければ研究はできない。第二に、当社は非常に集中して取り組むため、手掛けること自体が非常に少ない」
DeepSeekでは、勤務時間だけでなく組織運営も柔軟である。上意下達の厳格な階層構造はなく、従業員が従うべき細かな規則集も存在しない。また、厳密に文書化された順守すべき目標も設けていない。さらに、勤務時間の半分については、どのように使うかを従業員自身が決められる。
「当社には一般的な意味での組織はない。ビジョンによって動き、ビジョンによってまとまっている」と、純資産379億ドルを誇る梁氏は語った。
「そのビジョンですら文書化していない。当社では一度も書き留めたことがない」
従業員には「毎月達成すべき目標」すら与えておらず、梁氏は、自身は従業員の合意を基に会社を運営していると説明する。
「誰も彼らを管理していない。KPIもない」と梁氏は述べた上で、従業員には勤務時間の半分についてのみ業務を指示していると説明した。
「『正式な業務』が従業員の勤務時間の半分を超えないようにしたいと考えている。残り半分は自由時間であり、従業員は自分のやりたいことに取り組める」
これは、中国のAI戦略の中核を担う企業としては極めて異例の体制だ。特に、中国は厳しい労働文化で知られているだけに、その特異性は際立っている。
中国では過酷な「996」文化がテクノロジー業界の誇りとされてきた。DeepSeekは例外であり、標準ではない。
中国の「996」勤務――午前9時から午後9時まで、週6日働く勤務形態は、2021年に違法と判断された。しかし、この慣行はなくなるどころか、多くのテクノロジー企業の創業者の間では一種の誇りの象徴になっている。
中国のテクノロジー業界では、この文化が深く根付いている。EC大手のAlibaba、SNSの巨人Tencent、そしてAlibabaの競合であるJD.com(京東集団)は、いずれも996勤務を成功の要因の一つとして位置付け、熱意ある従業員が長時間働いたことが企業成長を支えたと評価してきた。
Alibaba創業者のジャック・マー氏は、2019年のエッセーで996勤務を「大きな恵み」と表現し、同社の成長に欠かせない要素だったと位置付けた。
中国では、厳しいオフィス文化から逃れるため、専門職を辞めて賃金の低い肉体労働へ転職する若者もいる。また、若年層の失業率上昇は、働くこと自体を選ばない人が増えていることも示唆している。しかし、経営者側はこうした変化をほとんど意に介していない。
近年では、起業家たちがビジネスSNSの「LinkedIn」で、現在の競争環境で成功するには中国の従来型996モデルを取り入れるしかないと主張している。
ベンチャーキャピタルである英20VCの創業者ハリー・ステビングス氏は2025年に「シリコンバレーでは競争の激しさが増しており、欧州の創業者もその現実を認識すべきだ」と述べ、議論を呼んだ。
ステビングス氏はLinkedInで「今勝ち残るには週7日働くスピードが必要である。失敗が許される余地はない。競争相手はドイツなどの一般的な企業ではなく、世界最高レベルの企業である」と投稿した。
また、英Index Venturesのパートナーであるマーティン・ミニョ氏も「午前9時から午後5時までという働き方は忘れるべきだ。996こそが新たなスタートアップの標準である」とLinkedInで述べた。
ミニョ氏はさらに「2018年、ベンチャーキャピタリストのマイケル・モリッツ氏が中国の『996』勤務を西側諸国に紹介した。当時、この考え方は物議を醸した。しかし現在では、この勤務形態はテクノロジー業界全体で静かに標準となっている。そして創業者たちはもはやそのことを弁解しなくなった」と指摘した。
一部のテクノロジー企業では、雇用契約に「996」条項を盛り込むことまで検討していると報じられている。これは、新規採用者に週72時間勤務を事実上義務付け、AI開発競争で優位に立とうとする動きである。
しかし、そのような状況下でも、DeepSeekはゆとりある企業文化を維持することで、同じAI競争の最前線へと躍り出ている。梁氏は自社を「ごく普通の人々の集まり」と表現しているが、その経営手法が極めて異例であることは明らかだ。
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