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「すし職人をAI開発の輪に入れろ」──オードリー・タンに聞く、米中AI競争で日本が勝つ道(1/5 ページ)

» 2026年07月28日 07時00分 公開

 「勝つために、究極のAIを作る必要はない。すし職人を開発の輪に入れろ」――。

 こう力強く言い切るのは、台湾で元デジタル担当大臣を務めたオードリー・タン氏だ。

 米国のOpenAIやGoogle、中国のDeepSeekなどが莫大(ばくだい)な資金とエネルギーを投じ、AIの覇権争いは世界規模で激化している。巨大モデルの性能向上を競う米中に比べ、日本はこの開発競争で後塵を拝しているとの見方も強い。しかし、戦場がデータセンターを基盤とするクラウドから、ロボットやデバイスが動く「物理世界」(フィジカル)へとシフトした瞬間、日本の立ち位置は一変する。

 2030年に約19兆円規模へ達すると予測される「フィジカルAI」領域において、世界屈指の製造ノウハウと現場力を持つ日本企業が、シリコンバレー主導の巨大モデルの競争から脱却して勝利をつかむための「真の勝ち筋」とは何か。タン氏が提示するのは、膨大な電力消費を避けるエッジAIと、漁師やすし職人といった現場の人間を「AIの処理ループ」へと巻き込む共創モデルだ。

 日本がグローバルな主導権を奪い返すための「持続可能なAI戦略」の展望を、タン氏に聞いた。

オードリー・タン 元台湾デジタル発展部部長。1981年、台湾台北市生まれ。2005年、プログラミング言語Perl 6開発への貢献で世界から注目を浴びる。2014年、米Appleでデジタル顧問に就任、Siriなどの人工知能プロジェクトに加わる。その後、蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣。台湾の新型コロナウイルス対応では、マスク在庫管理システムを構築、感染拡大防止に大きく寄与した(撮影:河嶌太郎)

「究極のAI」はいらない 米中の陰で日本が勝つ「エッジAI」の領域

――AI開発競争が激化する中で、日本はどのような方向を目指すべきだとお考えですか。

 競争において重要なのは、究極のAIを作ることではなく、どれだけ早くそれぞれの領域に入り込めるかだと思います。多くの企業は今、社会の中で特定の領域に特化したバーティカルなAIを作ろうとしています。それは翻訳や通訳かもしれないし、要約や業務支援かもしれません。これらは毎日機能するものでありながら、それほど膨大なエネルギーを必要とするわけではありません。

 こうしたAIを、できるだけユーザーに近いエッジ側のコンピュータで演算させる。そうすれば、サーバにデータを送る必要がなくなり、監視やプライバシーの問題も起きません。

 私はこれを、電気のようなものだと紹介しています。電気はあらゆる動力源、全ての車、あるいは超小型原子炉のような形で社会に埋め込まれていなければなりません。送電網が整備されていなければ、電気を使うことができないのと同じです。

 私はこれを、電気のようなものだと紹介しています。電気はあらゆる動力源、全ての車に実装されていなければなりません。あるいは超小型原子炉のような形で社会に埋め込まれる必要があるでしょう。送電網がなければ電気を使えないのと同じ(ように、エッジ側にAIを組み込んでおかなければ必要な機能を利用できなくなるの)です。

 日本はいまAIにおいて、その電気が普及する瞬間を迎えていると思います。日本には非常にユニークでパワフルな文化的想像力があります。

 西洋ではよく「ターミネーター」について語られますが、あれは自然な姿ではありませんよね。もちろん日本でもスーパーインテリジェンスやシンギュラリティ(特異点)といった話はありますが、必ずしもそうした超越的な存在が必要なわけではないかもしれません。

 むしろ人々が水平につながり、協力し合うことでさまざまなことができます。そうすれば、全員が勝者になれる、Win-Winな状況が作れるはずです。

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