5月、アーサー・メンシュ氏は、ほとんど空っぽの公聴会場に足を踏み入れ、フランス国民議会に緊急の警告を発した。パリに拠点を置くAI企業Mistral AI(ミストラルAI、以下「Mistral 」)のCEOであるメンシュ氏は、まばらに座る議員たちを前に、90分間にわたって主張を訴えた。
欧州には、自前のAIインフラを構築するための時間がおよそ2年しか残されておらず、それを逃せば米国のテクノロジーに恒久的に依存する「従属国」になるリスクがあるというのだ。フランスは、外国のAIモデルが自国の軍隊に深く組み込まれることを許してはならない。そのような依存は「取り返しのつかないもの」になる――メンシュ氏は、こう警告した。
わずか1カ月後、米国ワシントンD.C.で下された突然の決定が、メンシュ氏の主張を裏付けることになった。
米商務省は6月、Mistralの競合であり、米サンフランシスコを拠点とするAnthropicが開発した強力なAIモデル「Claude Mythos」について、外国からのアクセスを一時的に遮断したのだ。
欧州の企業や政府は、Claude Mythosが高度なサイバー能力を備えていることから、アクセス権を確保しようと争っていた。事前テストでは、同AIモデルはソフトウェアの脆弱(ぜいじゃく)性を発見できるだけでなく、それを自律的に悪用し、攻撃を最初から最後まで実行できることが判明していた。その能力を生かせば、防御側も脆弱性を発見し、敵対者がClaude Mythos級の高度なAIを利用する前に修正パッチを作成できる。
国家の安全保障が懸かっているため、重要なモデルへのアクセスを外国政府が気まぐれに停止できるという可能性は、受け入れがたいリスクとしてみられるようになった。
突如として、欧州で数少ない最先端AI開発企業の先頭を走るMistralが、欧州にとって最も有力な選択肢として浮上したのである。
「これは、私たちが顧客に警告してきたことの正当性を証明する出来事でした」――ビデオ会議で姿を見せたメンシュ氏は、こう語る。背の高い34歳の彼は、少し乱れた茶色の髪に、シンプルな白いTシャツ姿だった。
「そのテクノロジーを、自前で保有できるようにしておくこと。そうすれば、ある日突然アクセスを遮断されるような事態にならないと確信できます」
大きな問題は、Mistralが、多くの人が求める「欧州AIの旗手」としての役割を担う準備ができているのかどうかだ。「主権AI」を掲げる一方で、Mistralはチップやクラウドコンピューティングのインフラについて、依然として米国のテクノロジーにある程度依存している。最近では、米Microsoftとの戦略的パートナーシップを拡大すると発表した。
さらに重要なのは、MistralのAIモデルが現在、Anthropic、米OpenAI、英Google DeepMindといった企業の最先端AIシステム、さらには中国の一部のAIモデルにさえ、性能面で対抗できていないことだ。
Mistral自身が「欧州の主権AIの救世主」として位置付けられることを望んでいるのかどうかにも疑問符が付く。欧州大陸に主権AIが必要だと警鐘を鳴らす一方で、メンシュ氏はMistralを地域内のリーダーと定義することを避け、グローバルなAI企業として位置付けることに慎重を期している。Mistralの売上高のおよそ40%は、米国およびその他の欧州域外の顧客から生じている。
「Mistralが世界を舞台にして競争できるのか」という懐疑的な見方は、長年にわたって同社につきまとってきた。しかし今、政治情勢の新たな局面と、大企業によるAIモデルの購入方法の変化が、その疑念を払拭(ふっしょく)する絶好の機会を与えた可能性がある。
メンシュ氏はパリ近郊で育ち、教師の父とソフトウェアエンジニアの母の間に生まれた。幼い頃から、父親譲りの数学と科学の才能を受け継いでいることは明らかだった。「やはり親の血を引くものなのですね」とメンシュ氏は語る。その後、フランスの名門工科大学であるEcole polytechnique(エコール・ポリテクニーク)とTelecom Paris(テレコム・パリ)に進学し、20代後半でGoogle DeepMindに入社した。
同氏のキャリアにおいて、メンシュ氏はまたしても絶妙なタイミングをつかんだ。30歳で高収入を得ていた仕事を辞め、大学時代からの友人であるティモシー・ラクロワと、米Meta出身のギヨーム・ランプルとともに、Mistralを創業した。それは「ChatGPT」が登場してAIブームを巻き起こしてからわずか5カ月後の、2023年4月のことだった。
Mistralは当時、AI分野の多くの関係者が欧州のAIエコシステムにおける「空白」と見なしていた部分を埋めようとしていた。すなわち、大規模言語モデルの構築を競う米国のトップ企業と対抗できる、欧州発の研究所だ。3人の創業者は、同社を設立した動機について、米国研究所向けに開発してきたクローズドソース技術を「開放」し、民主化したいという願望があったたと口をそろえて語っている。
Mistralは幸先のよいスタートを切ったように見えた。設立から1カ月後、米国のベンチャーキャピタルであるLightspeed Venture Partnersや、元Google CEOのエリック・シュミットらを出資者に迎え、1億500万ユーロ(約1億2000万ドル)のシードラウンドを完了した。
その3カ月後には、初のAIモデル「Mistral 7B」をリリースした。これは無料でダウンロードできるモデルで、Metaのモデル「Llama 2 13B」の約半分のサイズにもかかわらず、ベンチマークテストでLlama 2 13Bを上回った。
12月には、Mistralは初期の成功を糧に、3億8500万ユーロ(約4億4000万ドル)の資金調達ラウンドを完了し、企業価値は20億ユーロ(約23億ドル)を超えた。米国のデータベース企業PitchBookによれば、Mistralはこれまでに約40億ドルを調達しており、現在の企業価値は約230億ドルとなっている。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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