海がもたらすメリットは、海底の資源だけではない。海を意外な用途に活用しようという試みがある。
2026年の猛暑で、欧州の河川が干上がった。これを受けたルーマニアは、冷却水が確保できないとして国内唯一の原子力発電を成す原子炉2基のうち1基を停止した。冷却水の有無は、半導体不足に負けず劣らず近代インフラの生命線というわけだ。
冷却水は真水でなくてもいい――そう考えれば、海の水を使い、海にインフラを作るという発想が生まれる。AI向けデータセンターの需要を追い風に、韓国は米中に続いて海中データセンターの開発に乗り出した。同国の海洋水産省が進める“海中巨大AIインフラ団地”の目玉で、輸送コンテナサイズのモジュールに収めたサーバを水深20メートルの海底に沈めるという。年間平均水温が約13度の海水を利用した冷却システムを構築する計画だ。
海に沈めるだけでなく、浮かべる発想もある。韓国は造船技術を生かし、洋上風力を使う「浮体式データセンター」の開発も進める。沈めるにせよ浮かべるにせよ、豊富な海水を冷却水に使う発想は共通だ。
海中データセンターや浮体式データセンターが次世代AIインフラとして定着するかは未知数だ。振動の絶えない海という環境で、ハイテク機器が安定稼働できるのか、環境への影響はどうか、気になる点は多い。とはいえ、海水の新しい使い道としては一考の余地がある。
日本はデータセンターの効率的な冷却方式として「液冷技術の活用」「北海道の冷涼な気候を生かす」といった取り組みを進めている。しかし、海水そのもので冷やすという発想では、韓国に一歩先んじられた形だ。日本企業の宿題といえるだろう。
「日本は国土の狭い国」という思い込みがあるかもしれない。しかし、EEZを含めれば、資源開発や安全保障上の権益が及ぶ広大な「主権的権利」の範囲を持つ。もちろん、それだけ広い“国土”を守る必要があるということでもあり、海底ケーブルの安全保障を巡る議論はその具体例だ。2022年11月には、北朝鮮が発射したICBM級ミサイルが北海道沖・日本のEEZ内(渡島大島の西約200キロ)に着弾したこともある。領土侵犯ではないものの、こうした挑発がエスカレーションを招き、不測の事態につながらないとも限らない。
その一方で、海底資源の採掘や海水を冷却源に使う発想は、技術の進歩があってこそ新しい可能性を示す。経営者は日本の「国土」を広く捉え、海底ケーブルのリスクや海洋資源のポテンシャルといった、海のもたらす脅威とチャンスの両方にアンテナを張っておきたい。
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